表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第一章 王国と芸能界とファミレスと
2/45

2.推す方と推される方

「今日もお疲れ様、私! よく頑張った!」


 22時、野岸友香は、自宅という小さな城の18㎡ワンルームに帰宅した。

 トートバッグをほおり投げ、スウェットを脱ぎ捨てたままのベッドにダイブする。


「あのせっかちオヤジめ! 料理をオーダーして5分で料理を提供出来るわけないでしょ! ファストフード店ではないのよ! カスハラもいいところだわ!」


 ファミリーレストランでバイトしている大学一年生の友香は、理不尽だった出来事を声に出し、罪のない枕を叩きつける。


 ……こんな時は!


 彼女は元気に飛び起き、スマホを取り出し、ロックを解除する。

 スマホの画面には、端正な顔のアイドルが映し出された。

 ハンドマイク片手に汗を光らせ、笑顔で手をふっている画像だ。


「はぁ、今日も麗しゅうござりまする……疾風(はやて)君……」


 先日のショーケースでの公式ファンクラブアプリから供給された絶品の一枚。

 これがあれば、彼女はありとあらゆる荒波を乗り越えられるような気がする。

 いや、事実乗り越えている。

 世の中、愛とストレスで構成されているのだ。

 私はこの「神」といっても過言ではない存在によって、生かされている。


 (これからスーパーで買ってきたお弁当を食べて、シャワーをして明日と戦うために寝るか! )


 明日は一限目の必須科目があるから、睡眠6時間取れるかどうか。

 友香は半額シールのついた弁当をレンジで温め始めた。








 ※ ※ ※


「お疲れ様、REDWIND(レッドウィンド)のみんな~」

「あ、橘プロデューサーおはようございます!」

「そんなに緊張しないで! 僕たち年齢はそんなに変わらないのに」


 ここは、今、飛ぶ鳥を落とす勢いの「REDWIND(レッドウィンド)」というアイドルボーイズグループの控え室。

 これから、事前収録があり、待機している楽屋に彼らのプロデューサー橘光輝(こうき)が立ち寄ったのだ。

 彼はすらりとチャコールグレーのスーツを着こなしている。それは、180センチのやせ型長身の彼にとてもよく似合っていた。

 涼しげな目元で終始にこやかな口元は、優しい雰囲気をまとっている。

 目鼻立ちもはっきりしていて、彼の方こそ芸能人と錯覚させた。


疾風(はやて)は今回高音が多い曲だが大丈夫か? 喉を痛めないように」

「はい、僕の高音の声が使えて嬉しいです」


 REDWIND(レッドウィンド)は5人グループだが、ダンスもさることながら、ボーカル力も高く評価されている。

 特に瀬田疾風(はやて)は、ビジュアルもよく可愛らしい性格で、中性的な高音が武器のアイドルだ。

 当然人気も高い。

 彼は歌うことが大好きで、あるオーディションで落選したが、橘光輝(こうき)の目にとまり声をかけられた。

 そして、橘のプロデュースによりREDWIND(レッドウィンド)はまたたく間に人気を博していった。

 2か月後にはライブツアーを控えている。

 まだ10~20代のメンバーで構成されているグループは、楽しそうにわちゃわちゃ騒いでスナック菓子を取り合っている。

 その様子をSNSにあげるためスタッフがスマホを向けていた。

 光輝(こうき)は微笑ましく若い彼らを眺めながら、デビューまでの道のりに思いを馳せた。







 2年前、橘光輝(こうき)は様々なオーディション会場を回り、心揺さぶられる歌声をもつ少年を探していた。

 それは歌が上手いとか高音が出るとか、そんな逸材を求めているわけではない。

 自分が欲しているのは「あの歌声」だけだった。

 もう一年以上、様々な会場を回り、その原石を探し回っていた。

 すると、規模が小さなオーディションではあるが、橘は疾風(はやて)の歌声を聴き、彼の容姿を見て、衝撃を受けた。

 

 冗談ではなく心臓が一瞬止まった。

 自分の細胞全てが彼を探しあてた喜びに震えてた。


 ーー見つけた。やっと「『君』に再会できる機会」を得たーー


 瀬田疾風(はやて)は残念ながら、そのオーディションは落ちた。

 なぜなら、彼は緊張して自己アピール力が欠けていたからだ。

 芸能人になるには、目立とうとする強い意志が必要だ。

 しかし、橘光輝(こうき)にとっては、彼が落選してくれて幸運だった。

 残念な結果に少年は簡素な廊下の椅子に座って、うなだれている。

 光輝(こうき)は彼に近づいた。

 気配に気づいた疾風(はやて)は、その人物を見上げる。


「瀬田疾風(はやて)君だったかな? 僕と一緒に仕事しないか? 絶対に後悔させないよ」


 そう言いながら、少年に名刺を手渡す。


 疾風(はやて)は、口を大きく開けて驚き言葉も出ないようだ。

 みるみる顔が高揚して赤くなり興奮しているようだった。


「ぼ、ぼく!! さっきオーディション落ちちゃって……それでもいいんですか?」

「落ちてくれて僕にとってはラッキーだよ。君を探してたからね」

「……僕をさがす……?」


 光輝(こうき)ははっと気づいて言い直した。


「いや、君みたいな人材を探してたんだ! どうかな? うちの会社で、僕が初めてプロデュースするアイドルグループの一員としてのデビューなるけど」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 疾風(はやて)は即決断した。

 なぜなら、名刺には大手芸能事務所の名前が記載されていたからだ。

 橘自身は、彼が中心となるプロデュースは初めてだが、ここ二年で数多くのアイドルのプロデュースチームに参加してきた実績があった。


 ーー人の心を掌握する作業なんて、どの世界のどの時代も同じだからな。たかが何十万人の人間を夢中にさせるだけ。しかも短期間。なんてことはない。俺にとって、瀬田疾風(はやて)はただの釣りエサにすぎないーー



 橘光輝(こうき)は爽やかな笑顔を疾風(はやて)に向けて、会社まで一緒に移動した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ