19.これがプロポーズってヤツですか?
「一体クローゼットの中で何をしてたのですか?」
ハル皇子は率直な疑問を投げかける。
「ビチリア宰相の裏切り行為の内容を聞いたと証言しても、信じてくれる人は少ないでしょう。王妃のお兄さんだし、この国の宰相だから頭がいいじゃない。きっと上手く言い逃れするだけだと思う」
リリーシャ(友香)は自分の考えをハル皇子に伝えた。
「あなたはもう同士だから白状するわ。これを聞いて」
彼女はスマホを取り出した。
彼は不思議そうに未知の物体を見つめる。
そして、先程の会談の内容を再生し彼の耳に押し当てた。
そして、会談内容がそっくりそのまま聞こえ、衝撃を受けていた。
「な、なんですかっ! この物体は! これはすごいっっ! 動かぬ証拠じゃないですかっ!」
「まあ、そうね。私の世界では、皆持ってます。これがないと生活できないんですよ」
ハル皇子は、初めて与えられた玩具のように興味を示していた。
「触っていいですか?」
「はい、どうぞ、ロックの解除は……」
と彼女はスマホの使い方を教えようとするが、画面が反応しない。
いや、友香の指には反応するが、ハル皇子の指には反応しないのだ。
「残念です……これが使えたら、おそろしく便利なのに」
「やはり、異世界の人の指には反応しないんだ。しょうがないよね」
彼女は紅茶を口にふくみ、カヌレを完食した。
次はマカロンを手に取っている。
「ハル皇子様……ですよね? 先程の会話は、どの部分が密談なのでしょうか? 婚約祝いやナリア伯爵の育児、ラランカの栽培とか……なにか重要なことをビチリア宰相は話しましたか? 私にはわからなかったです」
ハル皇子は少し呆気にとられた表情になったが、すぐに笑顔になって友香の頭をなでた。
「いいんですよ、あなたはそれで」
ーーリリーシャ嬢本人なら、あの会話が陰謀に満ちたものだと理解するだろう。今は無邪気な別の女の子が話をしてる。どうか神様、あともう少しこのままで……
すると、ハル皇子は友香との貴重な時間を惜しむように、また質問責めを始めた。
「あなたはどこの国からいらしたんですか?」
「よくわからないけど、リリーシャがあなたに個人情報教えるなって言うのよ。ごめんなさい」
「では、どうしたら、あなたに会いに行けるんですか? あなたの体は、今どうなってるんですか?」
「私が聞きたいわ。突然、リリーシャと一緒にこの世界に飛ばされたから」
「リアンナ王国が、平和に存続するように歴史が変われば、あなたは元の世界に帰れると聞きました。では従来通り、リアンナ王国が滅亡すれば……あなたは帰れないということですね?」
ハル皇子の視線が鋭くなったような気がした。
ーー 歴史が変わらなければ……確かに私は……私はどうなるの?
「どうです? 私の側に一生いませんか? もちろん正皇后として。」
ハル皇子は、マカロンを握っている友香の手を両手で包んで見つめ続けた。
ーー何? この人の正皇后? 結婚するってこと? 私が? ちょっと待って! こ、こ、これはプロポーズってヤツ?
しばらく時が止まったように、二人は微動だにしなかった。
ハル皇子はにこっと笑って、友香の手を離した。
「……ちょっと唐突すぎましたね。僕も焦りすぎました。考えておいて下さいね。とりあえず、ビチリア宰相をアクア王子から離す方法を考えましょう。」
「は、はい……」
友香は心臓が爆発したように高鳴ったまま、二人で作戦を練った。
そして、ハル皇子に部屋まで送ってもらった。
その際、また挨拶するように友香の手にキスをして、おやすみなさいとささやかれた。
※ ※ ※
ーー完敗……完敗だわ……。あんな最上級皇子様な人いる? どうやって太刀打ちしたらいいの? 私はただのアイドルオタク女子大生なんですけど!
リリーシャ(友香)は寝着に着替えて全身真っ赤になり、ベッドに臥せって足をバタつかせた。
ーーいや、あの人は、リリーシャ溺愛でそのために皇帝の座も譲ったはず。わ、私は……私には疾風君という人がっ!
すると、リリーシャが友香に頭の中で話しかけてきた。
『友香様! オークランド大帝国のハル皇子に騙されてはいけません。あの方は自国でずっと仮面をつけていらっしゃるんですよ!』
『なんで?』
『噂では、人気がありすぎるかららしいです。器量良くて、あのスマートな性格で聡明な方でしょう。令嬢達はころっと騙されてしまうのですわ』
リリーシャは冷静に友香に忠告した。
『でも、歴史ではリアンナ王国滅亡の後、リリーシャはハル皇子の側妃になってるのよ。皇帝の座よりリリーシャを妃にする方を選んだのに』
『私は……アクアがこの世にいなくなったショックで……その後の人生をあまり覚えていません。それほど私にとってはアクアが全てだった。たとえ「悪王」だと称されても』
『……リリーシャさん……』
ーー そうだよね。この世界で、好きな人と結婚して平和な国で暮らしたいよね。私だって、自分の世界で推し活したいわ。私の身体だってあっちにあるし。
友香はハル皇子との未来について考える。
自分の容姿にいたっては、本当にごくごく普通の女子。
リリーシャさんみたいな外見を期待されても困る。
私は身体をこの世界に移す術も知らないから、正皇后なんてあり得ない。
ハル皇子とは自分の世界で出逢うことは万に一つもない。
だから……あのプロポーズは良い思い出として記憶しておこう、と友香は決めた。




