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推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第二章 【異世界編】ココロとスマホだけ異世界へ
18/45

18.裏切り者と勇敢なメイド様

 夜8時。オークテリシア大帝国ナリア伯爵とビチリア宰相の密談一時間前である。


「リリーシャ様、ご要望のサイズのメイド服お持ちしました」

「ありがとう。そこに置いといて」

 

 メイドは、何に使うのか疑いの目を向けながら、リリーシャの部屋から退出した。 今は友香がリリーシャの体を動かしている。

 

『何をなさるの? まさかこれを着るわけではないですよね?』


 素朴な疑問をリリーシャが友香にぶつける。


『服を着なくてどうするの? 眺めるの? 飾るの?』


 友香は頭の中でリリーシャの質問に答えながら、さっさとメイド服に着替えていた。


『伯爵令嬢がメイド服を……』


 リリーシャは、自分がメイド服を着ている姿に愕然としているようだ。一方、友香は一回着てみたかったんだよね、と暢気なことをつぶやきながら楽しそうに髪を結い上げた。


 事前に友香はナリア伯爵担当のメイドに、夜はどのような指示を受けているか、直接情報収集していた。

 今日は夜20時半までに部屋の清掃と、21時直前にお茶のワゴンを部屋の前に置いておく予定だと聞いた。

21時まではナリア伯爵他オークテリシア大帝国一行は、別の客室で時間をつぶしているらしい。それまで、部屋の清掃が入るため鍵も特にかけていないと聞いた。

 友香は、20時35分から20時45分の10分間、ナリア伯爵の部屋にこっそり入室可能だと推測する。


「おっと、いけない! 私の相棒を持っていかないと!」


 友香はスマホを手に取り、エプロンのポケットにしのばせた。

 そして、いざナリア伯爵の部屋に向かおうとした時、リリーシャが脳内で話しかけてきた。

『友香様、ハル皇子に友香様に関する情報を教えないようにお願いできませんか?』

『いいけど、何故?』

『私に考えがございます』


  

 ※ ※ ※

 20時55分、まず、オークランド大帝国のナリア伯爵、イリアン子爵(ハル皇子)他三名が部屋に向かっていた。

 指示していた通り、お茶のワゴンが扉前に置かれている。

 騎士の一人がそのワゴンを押して部屋に入った。

 しばらくすると、ビチリア宰相が一人でナリア伯爵の部屋の前に現れて、扉をノックし入室する。


「これはこれは、ナリア伯爵、遅い時間にお集まりいただき恐縮でございます」


 ビチリア宰相は、大袈裟に喜びを表現し、ナリア伯爵に握手を求めた。

 彼も手を差し出し、両者は起立して固い握手をする。

 10分程、王子の婚約祝い話や世間話に花を咲かせた。

 その間、イリアン子爵(ハル皇子)他騎士達が紅茶を配膳する。

 

「ところで、先日ラランカの花の事件がありましたが」


 ビチリア宰相が密談の核心に触れてきたようだった。

 しかし、もちろん言葉を濁すだろう。

 イリアン子爵(ハル皇子)は緊張しながら、次の言葉を待つ。


「ラランカの花にご興味ありませんか? とても美しい花でしょう」


 ナリア伯爵、イリアン子爵(ハル皇子)他、同席者は表情を固くした。

 これは「ラランカ=リアンナ王国」を指している。

 ラランカはリアンナ王国を象徴する国花だからだ。

 ただ、もちろん言い逃れできるよう、ただの「花」のことだとも解釈できるように表現しているのだ。


「そうですね。しかし、オークランド皇帝陛下の好みに合うかどうか……」


 ナリア伯爵は即答できない旨を伝えた。


「私が栽培方法の情報を提供しましょう。きっとお役にたちますよ」

「承りました。そのご提案、確かに国に持ち帰ります」


 ここで、この重要なラランカの話は終わり、最後少し歓談していた。その時、それは起こった。


 ーー ゴトンッッ!!


 クローゼットの中で何か音がして、一瞬緊張が走る。


「何者だ!」


 イリアン子爵(ハル皇子)が、クローゼットを勢いよく開けた。すると、大量の服の間から恐怖に怯えるメイド姿のリリーシャ(友香)の顔が、眼前に飛び込んできた。


(君か……っ! )


 あまりに無謀なことをしている彼女を見て、逆にイリアン子爵(ハル皇子)は笑えてきた。


「なんだったんだ? 誰かいたのか?」


 ナリア伯爵は、声を荒げて問いかけた。


「いいえ。ハンガーが落ちただけです。かわいらしいネズミがいたずらしたのでしょう」


 イリアン子爵(ハル皇子)は、服に埋もれているリリーシャ(友香)と同じ目線になるように四つん這いになった。

 彼女は顔が青ざめ全身が震えている。

 その時、彼は床についた彼女の左手を、自身の右手で優しく上から包んだ。そして、にっこり微笑む。

 それから、「お · ち · つ · い · て 」 と、無音で一語一語ゆっくり口を開いて励ました。ハンガーをかけるふりをして、イリアン子爵(ハル皇子)はクローゼットの扉を閉める。


 リリーシャ(友香)は、胸をなでおろした。


 ーーあ、あぶなかったぁ……!! スマホの録音停止ボタンタップしたら、落としちゃって! 


 心臓の高鳴りがおさまらない。

 呼吸も荒い気がする。

 リリーシャ本人の意識が頭の中でうるさく騒いだ。


『ばか、ばか、ばか! こんなことして殺されたかもしれませんよ?! 本当に友香様はなんて無茶なことをなさるんでしょう!』

『私だって自分の世界に帰るのに必死なのよ!』


 いつも通り、脳内でケンカしていると密談は終わったようだ。宰相は満足気に、それでは良い夜をと、挨拶をして退出した。 ビチリア宰相はともかくナリア伯爵は自室なので、退出する必要はないのだが、ハル皇子はナリア伯爵他三人に命令した。


「少し一人で考えを整理する時間が欲しい。30分程一人にしてくれないか」


 ナリア伯爵他三人は、さすがに聡明なハル皇子でも、今回の提案には戸惑っていることを感じとり部屋を出た。彼は鍵をかけ、彼らの足音が遠ざかるのを扉に耳をつけて確認する。リリーシャの意識は、イリアン子爵(ハル皇子)が苦手なのか、またもや深層世界にかくれてしまった。


「勇敢なメイド様、もうこちらに出てきても大丈夫ですよ」


 ハル皇子はテーブルについてクスクス笑いながら、クローゼットに隠れているメイドに話しかけた。リリーシャ(友香)は、メイド姿でクローゼットから、のろのろと部屋に出てきた。


「いつからそこにいたのですか? 緊張したでしょ?」

 

 ハル皇子は、立ったままの彼女に着席を促した。そして、お茶を用意し、簡単なスイーツを彼女の前に並べた。


「どうぞ、かわいいネズミさん。あなたの戦いは終わりましたよ」


 リリーシャ(友香)は、勝手なことをして、てっきり怒られると思っていたので拍子抜けした。


「ご、ごめんなさい。私、どうしてもビチリア宰相の陰謀の証拠を集めたかったから」

「ふふ……よくできました。怖かったでしょ? ご褒美食べて下さい」


 リリーシャ(友香)は目の前のモンブランを口にした。美味しい美味しいと、はしゃぐ彼女をハル皇子は笑顔で見つめていた。


 

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