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推し活女子大生が王国を救うまで現代に帰れません!  作者: 夢野少尉
第二章 【異世界編】ココロとスマホだけ異世界へ
14/45

14.ハル第二皇子、アクア王を処刑する

 ーー 過去5月17日 リアンナ王国敗戦日ーー



「アクア王陛下、リリーシャ王妃殿下! もうすぐここにもオークテリシア大帝国軍が突入してきます!」

 

 ここはリアンナ王国王城の大広間。

 王のアクアと王妃リリーシャは、抱き締めあって震えていた。王室の騎士達が二人を守るため剣を抜いて敵兵を待ち構えていた。

 二人はまだ18歳の若い統治者であった。

 政治のことも経済のことも何もわからなかった。

 子供が悪い大人達の言うがままに国政を進めただけであった。

 それが、周りの人間を苦しめ、国民をこの2年で貧困に追いやった。

 

「陛下をお守りしろ!」

「リアンナ王国は永遠である!」

「大帝国軍は帰れ!」


 意気揚々と若い護衛達が幼い王と王妃を取り囲んで壁になり防御体勢に入る。

 アクア王も剣を抜いて待ち構えた。

 味方の兵士達は次々と敵兵の剣にくだけ散った。

 廊下は、断末魔の叫び声が響く地獄絵図と化している。

 

 バターーーンッッ!!!

 

 広間の扉が無造作に開けられた。

 大帝国軍が何十人と突入してきた。


「抵抗はやめろ!」 

「皆、降伏したら、命は助けてやる!」


 血だらけの仮面をつけた一人の騎士が広間に入ってきた。

 大帝国軍は彼のために道を開ける。


「リアンナ王アクアと王妃リリーシャか?」


 二人ともあまりの惨劇に声も出なかった。

 リリーシャは震えが止まらず、表情は血の気が引いて真っ青だ。


「リアンナ王国の騎士達よ」


 仮面の騎士は、その剣をリアンナ王国軍に向けた。

 彼は、円陣を組んで盾となり王と王妃を守っているリアンナ王国の騎士達に語る。


「わかるだろう? 我々オークテリシア大帝国の勝利だ。今さら、この二人を守ってなんになる。剣を捨てろ」


 リアンナ王国側の騎士達は、威厳ある声に一瞬(ひる)み、お互い顔を見合せた後、次々と剣を捨てた。


「よし、この騎士達を連れていけ。あくまで、彼らは悪政の犠牲者だ。傷つけるなよ」


 リアンナ王国側の生存している騎士や使用人は、捕縛され大帝国側に連行された。

 残ったのは、幼いアクア王とリアンナ王妃だけとなった。

 仮面の騎士は、二人に話しかける。


「お前達には悲しい知らせだが、これはリアンナ国民の民意だ。ここまでの道中、我々に対してリアンナ国の平民達が、道を開け、拍手をして迎え入れてくれた。中には飢えているのに、パンを一切れ差し入れてくれたり、野草を花束にして、歓迎してくれた。もう大帝国の一部となり、新しい未来に期待してくれているのだよ」


 アクア王はそれを聞いて、絶望した表情に変わった。


「お前達の周りに悪意ある人間が何人かいたのだ。ただやはり、どこかでお前達は気づかなくてはならなかった。リアンナ王国のことを思うなら、残念だがここまでだ」


「わ……わかった」


 18歳のアクア王は、力なく剣を落とした。


「何か最後に王妃に言うことはあるか?」


「……いや、もう彼女は自由だ。ただ、大帝国側にお願いしたい。彼女は利用価値があると思う。貴国で生かしてやって欲しい」


「……いいだろう」


 リリーシャ王妃は眼前に広がる悪夢に思わず叫んだ。


「わ、私もここで斬って! アクアと逝かせて!」


 仮面の騎士が剣をアクア王に向けたその時。


「手柄を独り占めなんて、許さんぞ! ハル!」


 広間に入ってきたのは、オークテリシア大帝国第一皇子ペリドだった。

 仮面の騎士はここで正体がばれた。

 第二皇子ハルだったのだ。


「俺がアクア王の首をもらう!」


 ハル第二皇子はため息をついた。

 ふと、リリーシャ王妃が目に入った。涙を流し、アクア王の足に両手を巻き付けていた。


(ここで王の処刑は酷だな)


 ハル皇子は、アクア王を後ろ手に縛るよう指示し、広間を退出させた。

 彼は、せめて処刑の場面を王妃に見せないよう別室で行う配慮をしたのだった。


「兄上、いいですか? 処刑したいのなら、一思いに処刑して下さい。いたぶらないように。どんな人物だろうと敬意をもって、剣をふるって下さい」

「あんな暴君、そう易々と死なせるかよ。リアンナの国民は、苦しんでから死んでほしいと願ってるだろ?」

「わかりました。私が処刑します。兄上の手柄でかまいませんから、手を出さないで下さいね」

「なんだと! 誰に向かって……!」


 ハル皇子は仮面ごしに鋭い目線をペリド第一皇子に向ける。


「わ、わかった……終わったら、ここに戻ってこい」


 ペリド皇子は萎縮し、小声でそうつぶやいた。

 その後すぐに、ハル皇子はアクア王が連行された部屋に走った。







「リ、リリーシャはどうなる? それだけ教えてくれ」


 アクア王はハル皇子に小声でたずねた。彼は帝国側の騎士二人に捕縛された腕をつかまれ、しゃがまされていた。


「おそらく第一皇子の妃となる。リアンナ王国の愛国者を納得させるためにな」


 アクア王は目を見開き、その目から一筋涙が流れた。


「そうか……良かった」


「それでは、ご覚悟を」


 ハル皇子は、アクア王が苦しまないように一気に剣をふり下ろした。

 アクア王は18年という短い生涯をリアンナ王城で閉じたのだった。



 ハル皇子は、絶命したアクア王を見下ろし血塗られた剣を下ろしたまま、しばらくその場で立ちつくしていた。

 いろんな感情がある。

 たぶん彼は素直な性格だった。

 良い人間に触れれば善良な道に、悪い人間に触れれば悪の道に。 

 ただ、それだけだったのだ。

 ビチリヤ宰相がアクア王をあのような人間にしたのは明白だった。

 オークテリシア大帝国も、リアンナ王国が自滅するのを静観していた。

 大きな戦争をせずに王国を手に入れるため。

 ビチリヤ宰相は、オークテリシア大帝国にリアンナ王国の情報を提供していた。

 リアンナ王城の見取り図、隠し扉、逃げ道、攻撃に弱い外壁場所等。

 ビチリア宰相は大帝国がリアンナ王国を統一した後、報酬としてその土地の領主としての爵位を希望した。

 全て歴史はビチリヤ宰相の策略通りに動いている。

 ハル第二皇子は、この狂った世界に歯ぎしりした。







 彼が広間に戻ると、兄のペリド第一皇子がリリーシャ王妃に絡んでいた。


「噂には聞いていたが、本当に愛らしい。アクア王も美形ではあったが……。リリーシャ王妃は光り輝いている。お前は私の妃となるだろう。ふふ……大国の妃だ、嬉しかろう」


 彼は王妃の頬を触ろうとしていた。

 弟のハル第二皇子はそれを叱責して止めた。


「兄上! 捕虜の協定違反をしてはいけません! 人道的に扱ってください」

「ちっ! 相変わらずつまらんヤツだな。アクア王は処刑したのか」

「はい。見事な最期でした」

「ふん、処刑に見事もクソもあるか!」


 リリーシャ王妃はもう涙も出ず、視線も定まらない人形のようにうなだれていた。

 そして、独り言のようにつぶやいた。


「……アクア……アクアはどこなの? 今日、私はこの部屋を一歩も出てないわ。えらいでしょ?」


 そして、彼女は微笑みながらペリド第一皇子の頬を両手でつつむ。


「メイドが私のドレスを着替えさせる手順を間違えたの。だから、私、罰を与えたわ。ムチ打ち5回。処置は3番。これでいいわよね? アクア?」


 無垢な子供のように無邪気に笑いながら、ペリド第一皇子につぶやく。


「な……なんだ? きも……っこんな女いらねぇ。お前にやるわ」


 ペリド第一皇子はそそくさと広間を出ていった。

 ハル第二皇子は、しゃがんでリリーシャに声をかける。


「大丈夫ですか? お気をたしかに……」


 ーー愛するものが処刑されたのだ。無理もない。先ほど、アクア王にリリーシャ王妃のことを託されたのに……。ーー


「アクア、何? 仮面なんてかぶってるの? 取っちゃうわよ」


 リリーシャ王妃はくすくす笑いながら、ハル皇子の血まみれの仮面を取った。

 すると、ハル皇子の端正な顔が現れる。


「ほら、きれいな顔。私はあなたのお顔大好きよ、アクア」


 彼女は両手で彼の頬を包む。

 ハル第二皇子は胸が張り裂けそうだった。

 こんな世界間違っている。


「行きましょう、王妃。オークテリシア大帝国へ」


 彼は王妃を抱き上げ、リアンナ王城の広間を後にした。

 その日は、5月17日だった。

 

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