10.愛のために地位を捨てた敵国の皇子
「オークテリシア大帝国ハル第二皇子」
ーー オークテリシア大帝国の第二皇子。聡明で人格者。14歳から公の場では仮面をつけていた。第二皇子ではあるが、兄のペリド第一皇子は人望に乏しく、皇太子にはハル第二皇子を推す声が高かった。正妃はメルリ オークテリシア。側妃はリリーシャ リアンナ 。彼は側妃を寵愛していた。亡国リアンナ王国の王妃で心の病にかかっているリリーシャをハル皇子の妃にするには、皇位継承権を辞退せねばならなかった。生涯、兄のオークテリシア皇帝ペリドを陰から支えた公爵となった。○○歳没。ーー
友香はハル皇子の生涯に衝撃を受けた。
自国リアンナ王国を滅ぼされて精神的な病にかかっているリリーシャ王妃。
ハル皇子はそんなリリーシャさんを愛するがあまり兄にすんなり皇帝の座を譲ったと……?
ーーすごい、……どこの映画のストーリーですか? 今、この世界を……「リアンナ王国滅亡」という過去を変えたら、このリリーシャさんがハル皇子の側妃になることはない。アクア君が王となって、リリーシャさんと結婚して、平和に繁栄するリアンナ国にする。それが私が元の世界に帰れる唯一の方法か……ーー
友香はあまりにも大きな計画に巻き込まれた気がしていた。
ーーただただ、私は早く疾風君に会いたいだけなのにーー
友香は疾風の画像を映し出すスマホを握りしめながら、眠りについた。
※ ※ ※
一方、 客室でオークテリシア大帝国ハル第二皇子は自分の家来達と4人で過ごしていた。ナリア伯爵はもちろん賓客なので一人部屋だが、皇子は護衛騎士に扮して潜入しているため合同部屋だ。
そこは、家来達が恐縮してくつろげない空間になってしまった。
皇子は申し訳なさそうに言葉をかける。
「私がいては気が抜けないだろう。なるべく外にいるように努める。先に寝ててくれ」
「しかし……一人では危険です。お供させて下さい」
「私は君たちより剣の腕は確かだよ。大丈夫」
笑いながらそう言って、ハル皇子は園庭へ散策に出かけた。園庭の夜は不気味ではあるが、誰にも邪魔されず心地よい。
ベンチに座っていろいろと考えを巡らせた。
ーーリリーシャ……14歳か、幼い婚約者だな。実際、目にしたら、生き生きとして光り輝いていた。
その美しさは、君が亡くなるまで変わらなかった。ただ、最期まで私の存在を認識することはなかった。君は18歳で処刑されたアクア王とリアンナ国を本当に愛していた。自分の心を壊してしまうほどーー
ハル皇子は14歳から公の場面では仮面をかぶっていたので、こんなに素顔を外で晒すのは久々だった。
顔に風を感じるのは、なんとも気持ちが良い。
そう、リリーシャだけではなく、ハル第二皇子ももう一度同じ人生をやり直していたのだ!
彼が21歳の時、オークテリシア大帝国は隣国の小国リアンナ王国と戦争をし勝利した。
リアンナ王国のアクア王は城内で即処刑。
亡国のリリーシャ王妃はハル皇子の妃に迎えられる。
これは、リアンナ国民に王族がオークテリシア大帝国皇家の一員になったと思い知らせるためだ。
しかし、さすがに心の病を抱えた王妃を正妃に迎えることはできず、彼は自分の側妃にした。
しかも皇帝の側妃には不適切とされたので、ハル皇子は皇位継承権順位通り兄に皇太子の座を譲った。
客観的に見て、彼は兄より皇帝に相応しかった。
周りは冷静で聡明な弟であるハル皇子を、皇帝に推す声が多かったが、彼は常に皇帝を補佐する公爵となる。
そうして、リアンナ王国はオークテリシア大帝国に支配され、リアンナ地方として大帝国の一地方名になったのだ。
ーー 皇帝の座より、私はリリーシャ王妃という人間に興味がわいた。私は彼女を愛していないが、ここまで人を愛せる人の一生を見届けてみたかった。すると、彼女が年を取り老衰で亡くなり、その葬儀が終わった翌日、朝起きると突然私は17歳に戻っていた! まだリアンナ王国も健在で、アクア王も戴冠前で婚約すらしていない! ーー
ハル皇子は戸惑ったが、とにかく17歳の自分の時間をもう一度過ごしていた。
当たり前だが、以前と全く同じできごとが起こる。
しかし、私は一回目の人生では、婚約者パーティーには出席していない……。
ここからは未知の人生だ。
隣国だが小国リアンナの王太子婚約パーティーには、以前は皇家どころか貴族さえ誰も出席していない。
ーー過去を変えてみようか……ーー
突然、その欲望にとらわれた。
戦争前の若くて生き生きとした側妃リリーシャにも会ってみたかった。
急遽、婚約者パーティーに出席する手はずを整えてもらった。
しかも素性を隠しての参席。
大帝国の皇子のまま参席すると、仮面をかぶらなくてはならない。
なにより、周りにリアンナ王国はもちろん他国の王族貴族達が群がってきて気が滅入る。
そうして、ナリア伯爵の護衛騎士「イリアン子爵」に化けて、彼にはこの茶番に付き合ってもらうことになった。
今のところ、変化があったのは、リリーシャが御者を助けたこと。
自分達がリリーシャ嬢と会ったことだ。
しかし、ハル皇子は解せずにいた。
ーーリリーシャ嬢は確かアクア王子に従順だったはず。何だ? 御者を助けるってーー
これからも少しずつ歯車が狂い戦争自体なくなり、リアンナ王国は小国ながらも栄華を極めるかもしれない。
ハル皇子はそんなことを考えた。
その時、ふと薄いピンク色の愛らしい花が目に入る。
ーーこれがラランカの花……リアンナ王国では貴重な花だが……。確か庭師を処刑にまで追い込む花だったな。この婚約パーティーまでの数日間に事件が起きるはず。ーー
ハル皇子は少し計画を練った。
ーー過去をいじってみるか。人の命を救ってみようーー




