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第九章 呼び名


イリスの背に乗った空を駆けた旅は、突如として終わりを告げた。目的地のヴァイスの拠点へ到着したのだ。


「小さい家だろ?近くに何も無いしな」


彼の家は、近くに人里は有るが小さな村で特に何が売ってる訳でもないと言う。食材も他の所で買う交流もなく、お互い住んでるのは知ってるだけだと、イリスの肢を撫でながら話す。


「イリスが居れば近い街へ飛んで行く方が良いわけよ。丁度良いのが近い村の木こり小屋だったのを、譲って貰って人が住めるように改装したんだ、言っとくが良い家じゃねぇぞ?」


見た目は、言われたとおりあちこち修復と修繕があり、ちぐはぐな素材が釘で打ち付けられた小屋だ。


家の中は外より整って居て、最低限の家具と部屋の角には魔物素材が雑につまれていた。


風呂は当然のようになく、湧水が近くにあるため、必要なだけ毎日汲みに行く。台所と外に釜戸があり、素材を煮込む鍋は使うなと、素材を干している農屋や物置小屋への出入りも禁止で、後は好きにして良いと言う。


「部屋数も無いから狭いが、ここがお前達の部屋だ。」


元は物置だった部屋は2畳。窓もなく灯りが無いと昼間でも暗く空気がこもっていた。寝台もないので、ヴァイスが売る予定だった魔物の毛皮を敷いてくれた。


「すいません、ありがとうございます」


上等だからと寝台は買わず、生活に必要な物の位置や使い方を一通り教えられる。


数日、やり方を教わりコリンと協力しながら料理も作れるようになった。原始とまでは行かないが、以前の暮らしにはない薪の釜戸や湧水までの水汲み、灯りも動物の油を使ったランプと狩り同様、慣れるまでが大変だった。


私達が二人で自活できると判断されると、ヴァイスは魔物素材の採取と行商を再開すると告げる。


家を離れる直前、ヴァイスは鍵を渡しながら簡単な指示を残す。


「今のお前…お前。」

「はい?」

「名前は決めたか?」

「…ネアムとつけました」


私であるが私では無い持ち主の名前があり、コリンを参考にヴァイスが呼びやすい響きだけを選び、思い入れは一切ない。ただの言葉として、ネアムと伝えた。


「じゃあ、ネアムとコリンは、俺の留守の間はこの辺で狩りをして、家にある物を使って生活しろ。」

「はい」

「狩った獲物を食って、身体を動かし基礎体力をつけろ」


話はそれだけで、ヴァイスはイリスに乗り空へと去った。


「聞きたいことがあったのですが…行ってしまいましたね」

「うん、へいき?」

「これまで通り、動物を狩れれば大丈夫です」


ここに来てから、コリンを励ますことで自分への励ましにもなった。ヴァイスの帰還は法則がなく、早ければ三日、遅ければ十日以上。私達は近くの森で狩りをし、獲物を捌き、家の台所で調理して食べる日々を送った。


道具と塩、穀物だけの最低限の食事でも、飢えを知る私達にとっては贅沢のように感じられた。コリンと笑みを交わし、ありがたく口に運ぶ。


食事を終えると灯りの油も惜しく、毛皮の上に横になりコリンと寝る。自然と早寝早起きの習慣が身につき、明け方にはヴァイスの指示通りの日常を送る。


少しずつだが、コリンは意思疎通が可能になり、会話も少しずつできるようになった。私は苦手な狩りや解体も、生活のために上達。コリンよりは実力で劣るが、言葉を意識的に教え、お互いの不得意を補う関係に変化していくのを感じた。


「肉付きも良くなったか?」

「はい、お陰さまで生き延びています」


久しぶりのヴァイスの目には、私達の体が成長して映ったようだ。

「はっ、そりゃいい。次の段階だな」

「はい、よろしくお願いします」

「明日の朝から教える」


ヴァイスは自室へ戻り、イリスはお気に入りのねぐらへ飛び立った。


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