第七章 後悔
「どうだ? 驚いたか?」
悪戯が成功した子供のような顔をするヴァイス。私もコリンも声を失い、完全に彼の思惑通りだった。
街を出たヴァイスは街道を外れ、平野に出る。首から下げた笛を吹くと、空からイリスが影を広げて降り立った。地面が揺れるほどの重さなのに、その動きはしなやかだった。
「夜目がきかねぇ。だから昨日は無理だったんだ。名はイリス」
彼がそう紹介したのは――人を背に乗せ、空を舞う生き物。ワイバーン。ヴァイスの仲間だという。
イリスと目が合った。黒曜石のような瞳。吐息が鼻先にかかると、温い血の匂いが混ざった風が肌を撫でた。巨体が地に着地した瞬間、土が跳ね、近くの草木が揺れた。翼を折り畳むとき、骨が軋むような鈍い音がして、私は背筋を震わせた。……理解が追いつかない。
「ほら、荷物からベルト出しな」
「は、はい」
言われるまま袋から丈夫なベルトを取り出す。腰に巻き、イリスが屈んだところへ恐る恐る登った。
「慣れるまでは、イリスに繋がれたベルトとお前らのベルトを固定する」
「落ちない?」
「そりゃ、落ちるぞ」
命綱はベルト一本。素材や耐久を慌てて確認しながら、(私は……ついて行く人を間違ったのでは)と胸の内で呟く。
横を見るとコリンも怯えきっていた。彼をこんな目に合わせてしまうなんて――。
「初めてはそんなもんだ。声はほとんど聞こえねぇから、無駄話すんなよ」
その言葉と同時に、イリスの巨体が宙へ浮いた。
鱗がこすれ合い、羽ばたきの一撃で視界が揺れる。臓腑を置き去りにするように身体が下に引っ張られ、耳の奥が詰まる。風は針のように顔を刺し、喉の奥が乾ききる。
(この大きさで、本当に飛ぶなんて)
理屈を無視するように、イリスは旋回しながら高度を上げていく。抑えて飛んでいるのはわかるが、息も苦しい。気付けばコリンと手を繋ぎ、鱗のざらりとした感触を頼りに目を閉じていた。




