第五章 打算
直面していた命の危機を、ひとまず乗り越えた私たち。
そこでヴァイスの予定を聞かされた。街を出る手はずは既に整えてあったが、あの一件で延期されていた。それを改めて、明日の朝に立つという。
「時間がねぇんだ。さっさと行くぞ」
店が開いているうちに必要な物を揃え、広場から彼の後を早足で追う。
私ははぐれないよう隣の彼の手を引いた。弟を兄が急かすような格好で、思わず苦笑がこみあげる。胸の奥では、もう一人の少年との約束を果たせたことがじんわり温かかった。
空を見上げる。私の身体の子にも、きっと良い兆しが訪れるはず。
けれど命を預かる使命はまだ続いている――そう思い直し、青く高い空を仰いだ。
服は中古の店。当たり前のように案内された。
この文明なら当然のことなのだろう。富裕の者が仕立てた衣が古着として流れる。かつての時代を思わせた。
ヴァイスは値段ではなく丈夫さを重んじ、私たちに大きさの合う物を選ばせていく。
粗い布地はごわつき、肌に草を擦りつけられるような感触だった。けれど、その分だけ長持ちしそうだと納得する。
靴は柔らかな革で作られ、鞄には中敷きや薄布まで。日用品もひと通り。
「たっけぇ!」
思わずヴァイスは声に出した。
けれど彼は二人分を揃えてくれる。高いとぼやきつつも支払いを済ませる姿に、彼の懐の広さを感じずにいられなかった。
第一次産業が栄えていないのだろうか――と、原因を頭の中で探りつつも、私は心の中で深く感謝した。
「よし、あー、お前ら」
「はいっ」
「帰る家があれば頼まめぇな。よし、来い」
ついていった先は宿屋。看板には焦がし技法で描かれた寝台の絵が掲げられていた。
今夜は宿で眠れる。嬉しいと思う気持ちと、昨夜の寝床が胸をかすめ胸は苦しくもあった。




