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第三十五章 日常


「イリス、行きましょう」

「…」


譲り受けたイリスを正式に私の使役獣として登録した。ヴァイスが毎年「運動不足だ」と言っては私に空を散歩させていたこともあり、イリスは私たちの背を受け入れることに抵抗はなかった。


空を翔けるその翼は、風を切り、地上の景色を一変させた。高所から見下ろす森は緑の海のようであり、遠くには陽光を反射する川が銀の筋となって走っていた。


イリスはやがて風の魔法を操るようになり、以前のように奔放に飛ぶことなく、私たちを守るように緩やかに舞った。同じ背に乗るコリンは街に留まる気もなく、ただ無言のまま私たちと共にいた。


言葉は少なくなったが、彼の心の奥で何かが揺れていることは伝わってきた。


「イリス、ここです。下降して」

「…」


指示に従い、イリスは緩やかに着地した。そこは森の奥にひっそりと佇む空き家で、かつて木こりたちが保養地として使っていた建物を譲り受け、二人で改修したものだった。年月を経て苔むした屋根と、木の香り漂う壁板が、記憶にあるあの家の懐かしい気配を醸していた。


「イリスは好きなねぐらを選ぶと良いよ」


イリスは翼を広げ空へ舞い上がった。家の上を旋回した後、視界から姿を消した。


「コリン、入ろう」

「…」


その夜は異様なほど静かで、時計の針の音が響き渡るほどであった。


翌朝、私は笛でイリスを呼び出し、魔物狩りの連携訓練を始めた。出かける時に声をかけた。


コリンは頷きはしたが、虚ろな瞳で一点を見つめていた。その姿が痛ましくあったが、掛ける言葉が見つからない。家に一人残すのも心配だが、ここに二人でいるのも良くないことだと、私はやるべきことをした。


「ヴァイスとの連携を、まずは見せてください」


私はそう告げ、イリスに策を任せてみた。しかしイリスは獲物を切り裂き、残骸と化した魔物を私に示した。


「イリス…これは高く売れません」

「…」


イリスは首を深く下げた。私は様々な方法を試したが、最終的に私の魔力で核を抜き取るのが最も効率的であった。核を失えば魔物は静かに絶命し、素材も傷つかない。


「イリス、信じてください。あなたには絶対に当たりません」

「…グ」


私は杖を構え、魔物の核を正確に捉えた。標的は即座に沈黙し、地に倒れた。


「これは一体なら有効な方法です」


続けて複数の魔物が潜む場所に向かい、私は地上に降りて魔力で核を探り、一体ずつ静かに絶命させていった。イリスには上空、高く距離を取らせ、安全を確保した。


その後、街へ戻り、組合へ素材を持ち込む。私はいまだシルバーランクのままだが、何度かゴールドへ上がる意思は無いと答えている。状態の良い素材を届けるため、組合はそれからは何も言わず高値で買い取ってくれる。


「さて、コリンは何を食べますかね」


私は市場を巡り、屋台や食堂で出来立ての料理を買い集めた。焼き立てのパンや煮込みの香りが漂い、温かさをそのまま土産に持ち帰るつもりであった。


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