第三十一章 複合
ヴァイスとの別行動。
嘆くコリンを後ろに、私は迷わず森の奥へと進む。
魔道具の武器や装備の効果を確認しつつ、この場では開発中の魔法も試せる。
人の魔法は属性ごとに現象が表れるが、魔道具は複数属性を組み合わせられる。
水や風の威力も異なり、制限を設ければ応用の幅も広い。
この可能性を試せる環境――だから私はヴァイスの楽しみに共感さえ抱いていた。
ゆえに、悲観は一切ない。
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「まだ先ですが……魔物が一体。他に人の気配もありません」
「どうやる?」
「試したい魔法を使っても良いですか?」
コリンの同意を得て、魔物の体内にある魔力の塊だけを狙う。
空間を切り離し、そのまま私の手に移す。
一瞬の後、手のひらには魔物の核だけが握られていた。
核を失った魔物は、その場で力尽きて地に伏す。
「上手くいきました」
「どうなってるの?」
これまで使わなかった理由はイリスの存在だ。
イリスも魔物である以上、万が一の事態があってはならない。
だからこそ、この魔法は封印してきた。
核を失った魔物の亡骸を裂き、核があった位置を見せながら説明する。
ただし、私の意識の働きについては口をつぐむ。
科学が発展していないこの国では、理解されるはずもない。
「身体を突き破る……ってわけじゃないんだね」
「はい。核の位置を変えただけです」
コリンは想像を巡らせ、ある程度の理解を示した。
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「このまま進めそう?」
「行けますね。まだ余裕があります」
魔法鞄は容量が大きいが、その感覚は使用者の感知に依存する。
「詰め込みすぎると入らないようです。試してみましょう」
中型の魔物を詰め込もうとした瞬間、鞄は拒絶反応を示した。
「ここが限界のようです」
「結構入るね」
荷馬車一台分と聞いていたが、正確には“荷馬車一台、山積み”といった容量だと確認できた。
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「夜営道具も試して、早朝に戻りましょう」
魔法鞄に意識を向けると、夜営用具をまとめた袋が指定した場所に現れる。
これも空間の位置を置き換える法則を応用しているらしい。
「便利ですが、中身を覚えていないと取り出せませんね」
「“全部出す!”って言わなきゃいけない?」
「ええ。最終的には『全部出す』が必要ですね」
店員から教わった“最終手段”の言葉だ。
魔法鞄は覚えておきたい物専用、何でも入れるなら普通の鞄――そう使い分けるのが望ましい。
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翌朝、街へ戻る。
夜営道具は充分な効果を発揮し、焚き火は魔物避けとして有効だった。
湯を沸かす筒や種火、寝心地の良いマットも実用的だ。
「魔法でやるのも簡単ですが、魔道具なら誰でも使えますね」
「そうだね、ヴァイスさんにも勧めよう」
街で待っているかもしれないヴァイスを思い、自然と足取りが速くなる。
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施設を覗いたが、イリスの姿はなかった。
残念そうなコリンを励ましつつ、組合へ向かう。
組合では、核を抜いた魔物を納品。
これまでは解体した素材をヴァイスが商人ギルドに卸していたが、傭兵組合では依頼外の獲物も解体から請け負ってもらえる。
持ち込みの魔物が多いのは、森や山で突然出くわすことも多いためだ。
解体費用は買い取り額から差し引かれるが、手間を考えれば効率的。
「状態も良く、中型火蜥蜴の査定も含め、高額の取引になりそうですね。解体は翌日でよろしいですか?」
解体専門の職員が組合裏の工房で処理するという。
目安金額を提示され、上回れば追加の説明が入る仕組みだ。
急ぎであれば一体だけ解体し、現金を受け取れるが、手持ちがあるため全て翌日に回した。
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「金貨十枚以上になりそうだね」
「魔道具に必要な核や素材が高値ですからね。必要な物も高価で、贅沢はできません」
「贅沢って……経験がないから分からないや」
宿無し生活を送ってきた二人に、贅沢な暮らしなど想像もつかない。
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もう一度施設を見に行ったが、やはりイリスの姿はなかった。
ヴァイスもまだ戻っていないようだ。
翌日、解体が終わった頃に組合を訪れると、査定済みの金額が提示された。
傷の少ない素材は高値となり、金貨十二枚と銀貨五十枚――遠征一回で得られる稼ぎとしては十分だ。
「魔物を詰めるだけなら、便利ですね」
魔法鞄をもう一つ購入し、夜営一式を予備として持つことにする。
今日の稼ぎだけでは足りず、貯蓄から不足分を補ったが、初期投資としては必要経費だ。
今後は必要と判断すれば、魔道具の購入も検討する方針にした。




