第三十章 別行動
イリスの元へ向かうと、物珍しさに誘われた傭兵たちが従舎の前に集まっていた。
朝の柔らかい光に混じり、喧騒もそこだけ賑わいを見せていた。
「よお、おはようさん」
「ああ、すまん。騒がしかったな」
ヴァイスは注意をすることなく声をかける。
傍らには、同じ従舎に預けられた虎の魔物や、遠見に使える鷹の魔物が控えていた。
街に入れない中型の魔物たちだ。
「ワイバーンなんて珍しくてな」
「そうらしいな。幼体から世話すると懐くぞ」
自然と魔物使い同士の情報交換が始まる。
しかしヴァイスはイリスと別行動で狩りをしていたため、知りたいことが多い様子だ。
「ヴァイスさん、私たちは組合に行ってきますね」
「すまんな」
興味深い話題だったが、イリスの主人はヴァイスである。
彼が身を持って体験した内容がなければ、情報を正しく精査できないと判断し、別行動を選択した。
去り際には狩りの連携方法について、ヴァイスが真剣に耳を傾けているのが見えた。
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傭兵組合に到着した私とコリンは、特に魔道具について尋ねる。
「そうですね…魔道具を使ったことがないなら、
この店で初心者向けの武器や防具を、
こちらでは遠征用の道具と魔道具を扱っています」
街の案内図を受け取り、店内を巡る。
武器や防具には魔力を安定化させる核が仕込まれ、
魔物素材を使った装備は耐久性だけでなく、魔法効果も付与されていた。
(前の大陸とはまったくの別物ですね)
魔物の核がエネルギーとなり魔法の現象を起こすという点は同じ。
ヴァイスの持つ水を出す魔道具は水を出すだけだが、
ここで売られている魔道具は、複数の効果を掛け合わせたものが多い。
光に反射する刃や革の質感、
魔力による強度補正が施された装備は、自然と購入意欲を刺激した。
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「これ、良さそう」
コリンの得意な弓には風魔法が付与され、射程や矢の速度が向上している。
価格は通常より高額だが、購入は可能だった。
「これからは魔法が付与された物が普通だと思って、
慣れるために買いましょう」
私の言葉が決め手となり、コリンは金貨一枚で弓と専用矢を購入した。
私は武器を使わないため、知識だけを得て店を後にする。
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「これは便利ですね」
「余所者かい? それは古い技法で作られているが、今も効果は変わらない。見た目だけ違うんだ」
手に取ったのは魔法鞄。
腰に巻くタイプや背負うタイプがあり、荷馬車一台分の容量を誇るという。
素材は軽量でありながら魔力を蓄えやすく設計され、遠征での運搬に特化していた。
価格は金貨三十枚から。
「高いですが、持ち帰る素材が増えるのは良いですね」
「勝手が良ければ二つ目は後で買えばいいよ」
大型魔物の素材や核は、この地では珍しくもないのだろうか。
貯蓄を減らしても必要経費として、魔法鞄を一つ、遠征用道具一式、
その他魔法効果付きの装備を購入した。
購入品はすべて腰の魔法鞄に収まった。
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「魔物狩りが楽しみですね」
「そうだね」
動きの少ない私が魔法鞄を持ち、
コリンは必要な物を残して預ける。
金貨四十枚以上の大金があっという間に消え、過去最高の出費となった。
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依頼は受けず、このまま魔物狩りに出る。
新調した装備の扱いに慣れるためだ。
遠征用具には夜営道具も含まれ、持ち歩いていた荷物には食料もある。
そのまま出て行く旨を伝えようと、イリスを預けている施設へと向かった。
ヴァイスはまだそこにいた。
早朝からの情報交換がまだ続いているらしい。
私たちは購入した物の話と、今後の予定を告げた。
ヴァイスはイリスとの連携を試すため、一人で活動してみたいと言い、
別行動を選択した。
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「慣れるまではこの街を拠点にする。イリスがいれば、街にいるのが分かりやすいだろ?」
「分かりました。同じ宿屋ですね?」
「違う宿に移った時は、伝言を組合に残す」
こうしてヴァイスとイリス、私とコリンは別行動となった。
ヴァイスの資金も適切に割り振られ、やや多いように感じたが、
「正当な働きの対価だ」と言われ、有り難く受け取った。
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「先のことは分からん。慣れた後どうするかは未定だ」
「分かりました、ヴァイスさん。怪我だけは気をつけて」
「その時はすぐにコリンを頼るさ」
「楽しんでくださいね」
「お前らもな」
怪我の治療を担っていたコリンは、
「無茶をしないように」と一言告げ、ヴァイスと別れた。
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「同じ街にしばらく残るんです。そんなに悲観しなくても」
「分かってるけど、唐突だなって」
まだヴァイスとイリスがそばにいると思っていたコリンは、
別行動への不安と寂しさを隠せないようだった。




