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第二十九章 異文化


「ワイバーンって、魔物のワイバーンか?」


緊張した空気は続いていたが、中へ通され、いくつかの質問を受けた。

ギルドの身分証、海を越えて来た経緯、上陸した海からここまで魔物の森が続いていたこと――。

そして、私たちがワイバーンに乗っている事実。


それらをすべて話すと、兵士たちは目を見張り、やがて驚きが興味へと変わり、お茶が差し出された。


ヴァイスがこれまでの道中の苦労を語れば、兵士たちは一喜一憂しながら耳を傾けている。


「船はあるんだ。だが、こっちは港がなくてな。ここは最北端の魔物の領域の最先端だ」

「じゃあ、ここは?」

「まあ、砦だな。ここには兵士しかおらん」


ここはまさしく最前線の防衛拠点、兵士の詰所であった。

聞けば、商人組合や傭兵組合といった組織が存在しており、私たちのような立場ならそこを訪ねるとよいという。


前の大陸のギルドに相当する組合が、この地では機能しているのだ。

国交があり、移民も受け入れていると知り、私たちは少し安堵した。


「これが……使役してるワイバーンか。これなら海も越えれそうだな」


兵士たちの視線はイリスに集まる。

この国では魔物を慣らし使役する者を“魔物使い”と呼び、傭兵組合に所属して仲間と共に魔物を連れ歩くことがあるという。


だが、ワイバーンを従える者は聞いたことがなく、ヴァイスはまるで英雄のように扱われた。

イリスは魔物の森に近いこの地を気に入ったのか、兵士に囲まれても静かに佇み、不機嫌そうな様子もない。


ただ、使役獣には手続きが必要で、その場で兵士の上官が状況を認め、一筆したためた証文を私たちに渡してくれた。


「そっちの大陸のことは知らんが、ここと交流のある大陸は魔物の脅威と隣り合わせだ。即戦力となる強者は歓迎だ」

「いや、いろいろ助かった。恩に着る」


二晩を過ごすうちに兵士たちとも打ち解け、特例としてイリスに乗ったまま街へ向かうことが許された。


イリスが翼を大きく広げると兵士たちの間から歓声が上がり、ヴァイスは気恥ずかしそうに手を振って応えていた。


「見えてきましたね」


組合のある街が遠くに姿を現した。

門の近くに降り立ち、使役の証として一筆を門番に渡す。

ワイバーンを街中で連れ歩くことはできないが、街の外であれば問題はないという。


ただし、使役獣であることを示す印が必要で、それが無いと事情を知らない者に攻撃される恐れがあると注意を受けた。


「慣れると可愛いですな」


最初は恐れていた門番も、イリスが落ち着いて待っている姿に触れ、声をかければ応じる様子を見て恐怖を解いた。


森での魔物狩りが日常の傭兵たちの街では、こうした魔物使いも珍しくはないのだろう。

先にヴァイスが使役の手続きを済ませ、私とコリンはイリスと共に門の外で待機した。


「俺も傭兵にすっか」

「似たような事やってましたしね」


イリスと共に狩りをするなら、傭兵として登録する方が都合がよい。

ヴァイスは身分証の手続きも済ませ、使役の証をイリスの足首に装着した。


細かな規則の違いはあるものの、組合の仕組みは大陸のギルドとほぼ同じ。

交易所では前の大陸の貨幣も秤で価値を換算し両替ができ、この国の貨幣に変えられた。


私とコリンも傭兵組合に登録し、前のギルドでの経験に応じた等級を与えられる。

依頼の区分はプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズ、アイアン。

私たちはブロンズのタグを、ヴァイスはワイバーンを使役していることから一つ上のシルバーのタグを手にした。


身分証を得た私たちは、イリスを街外れの従舎――使役獣専用の施設に預けることができた。

そこでは餌も水も用意され、ワイバーン便と同じように世話が行き届いていた。


安心して街へと繰り出すと、人々の様子は前の大陸と大きな違いはなく、人、エルフ、獣人、ドワーフが暮らしている。

ただしエルフやドワーフはやや少なく、代わりに小型の魔物を連れ歩く傭兵や魔道具を扱う者たちの姿が目立った。


街灯には魔道具が仕込まれ、風を起こす道具や、魔核のついた杖を持つ魔法使いらしい姿の者も多い。


文化の違う街や人に興味があるものの、宿の個室のある部屋はすぐに埋まるため急がねばならない。


「住んでる種族は同じなのに、魔道具が普通にあるのが不思議でならねえ」

「前の所は貴族が秘匿し独占してましたからね」

「なんか、そんな事を聞いてたな」


思い出すのは、あの国で金貨二枚で手に入れた唯一の水を出す魔道具。

今でもヴァイスは装飾を磨き、大切に布に包んでしまっている。


「はい、お待ちどうさま」

「うまそうだな、食うか」


目の前に運ばれたのは、魔物肉を使った温かなシチュー。

ここではごく当たり前の料理だ。

人々に違いはなくとも、文化は大きく異なる。


使役獣や魔道具の存在が会話を弾ませ、ヴァイスは酒を重ねながら未来の話を語っていた。


「ここが、ヴァイスさんの終着点だったのかも知れませんね」

「不安から解放された事も大きいと思いますが、初めての街で酔いつぶれるなんて余程、嬉しかったのでしょう」


杯を重ね、疲れも相まって眠り込んだヴァイスを部屋へ運び、私とコリンもそれぞれの個室で静かに休んだ。


――翌朝。


鐘の音が街に響き、目を覚ます。

身支度を整えているとコリンが部屋を訪ねてきた。ヴァイスはまだ眠ったままだ。


「まだ寝てますね」

「ゆっくり寝かせましょう」


扉を叩いても応答はなく、そのままにして一階へ降り、宿の朝食を取ることにした。

宿の部屋に置かれた魔道具を手に取りながら、この国でどこまで活動するかを語り合う。


やがて目を覚ましたヴァイスも加わり、三人で朝食を済ませた後、預けてあるイリスの様子を確かめに行く。


その後は再び組合へと足を運ぶ。

今度は国の情勢について詳しく聞き出すために――。


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