表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/37

第二十七章 信頼


海を渡る準備が整った。


普段なら近隣の森で軽く飛ぶ程度のイリスは、今回はワイバーン便の停留所に泊まり、魔肉を与えられて鋭気を養っていた。


「長い旅ではこうやって魔肉を食わせないと力が出ないからな」

「よかったな、イリス」

「調教はされていないようだが、イリスは頭が良い。普段から良いものを食べ、よく動いているのが分かる」


飼育専門の職員も、イリスの知能の高さを認めていた。

イリスは言葉を理解するように、微かに尾を振る。


これまでの空の旅でも、旋回の角度や動きに無駄がない。

風や空気の変化を敏感に読み取っていることが分かる。


ヴァイスは親バカのように浮かれ、イリスを褒めるのに忙しそうだった。



---


「よし、準備もできた。イリスを信じて行くぞ」

「はい」


空路を少しでも誤れば陸地に降りられない。

イリスを信じるしかない――それでも、夜が来れば海に落ちる可能性があることを思うと、心臓が縮む。


最初の陸地はまだ近く、四つ目の陸地はこれまでの倍の距離だ。

私もイリスを支える方法を考えるが、見失った空路では食料が尽きれば耐えるしかない。

夜目の効かない状況を変える手段は思い浮かばず、歯がゆさだけが残る。



---


一つ目の陸地は無人の小島で、ワイバーン便の停留所がある。

そこでお世話になり、イリスも魔肉を補給した。


二つ目は人が住む大陸。

目的地ではないが、減っていた物資をここで補給できた。

イリスは慣れた停留所に泊まり、魔肉を補給する。


三つ目は一つ目と同じ無人の島だ。


翌朝、停留所の職員がイリスの状態を確認し、「問題なし」と告げる。

日暮れまでに次の難所を絶対に越えねばならない。

これまでのような余裕のある空路ではない。



---


海の先が遠くまで見渡せる高さまでイリスは旋回し、上昇する。

ここまでずっと地図を握りしめていたヴァイスの手も、いつになく力が込められている。

ヴァイスの声を聞き、イリスは空路を定めた。


「よし、そのままだ」


空を見上げる。天候に変化はない。

だが、海上の雲は刻一刻と形を変え、風向きひとつで状況は一変する。

一瞬の油断が、私たちの命を奪う可能性もある。


コリンも自分の身よりイリスを案じ、進路が逸れないよう目を凝らしている。

余計な声をかければ集中を乱すと思い、私たちは静かに見守った。



---


「はぁ、イリス、よくやった!」


目的地の陸地が目に映った瞬間、無意識に込められていた力が抜けた。

職員から聞いていたよりも、イリスは余裕を持って到着した。


イリスも理解したのか、時折高く鳴いていた。


「イリス、ご苦労。今日はゆっくり休め」


イリスは慣れた停留所へ自ら入っていった。


「俺たちは宿屋だな」


長時間の緊張が疲労となって体に残る。

夕食を取り、三人とも「疲れたな」と口にした。

やり遂げた感覚があるため、疲れてはいるが寝付けない夜となった。



---


「ここから先も、聞いても変わらん」


朝食を取り、今後の行程を大まかに話すヴァイス。

大陸間の関係から、同じような国が多いと停留所の職員は言う。


ワイバーン便が開拓途中の空路があるという。


地図を見せてもらうと、開拓済みの空路が線でいくつも示されていた。

職員はヴァイスの求める意図を汲み、言葉を続けた。


「それ以外に進めば、可能性はある」


余白の多い地図は金貨四枚。

これまでの情報が書き込まれている。

金貨二枚の地図より大きい。


「余白ばかりの大きな地図だ。…だが、俺はこの旅…いや、ここからは冒険がしたい」


その地図を見ながら言うヴァイスの声には笑いがなく、これまでとは違った覚悟が感じられた。

何があるか分からないからこそ、見捨てるのではなく「ついて来るか」と問う意志だろう。


「行きます」

「私も同じです」


コリンも私も、ついて行かない理由はない。

ヴァイスの表情は、どこかほっとしたように見えた。


ヴァイスは立ち上がり、いつもの安心させる表情はなく、隠せない不安が入り交じっている。

だが、その瞳には「冒険」という言葉に相応しい、未知を楽しむ情熱が宿っているように感じた。


こうして、私たちの冒険が始まった。



---


数日間、地図の余白を埋めるように空路を進む。

陸地の上を走り、魔物を狩り、近くの街で素材を売って資金を稼ぐ。


前の大陸と同じ旅が続き、人の暮らしも変わらない。


「ここで周辺を探索するより…進んだ方がいいな」

「そうですね。今のところ聞いた情報でも目新しいものはありません」


街に降りると、面白そうな情報を集めるヴァイス。

イリスも待つ間は空高く旋回し、進むべき空路を探っていた。


ヴァイスの聞き方が可笑しく、聞かれた方も笑い、面白い情報を提供してくれる。

しかしほとんどは土地の食べ物や風習の話だった。


それも旅の楽しみではある。

寄り道ではなく冒険として、私たちは面白い土地に立ち寄り、虫を食べたり変な踊りを踊ったりと、面白おかしく旅を続けた。


ただ、笑顔の裏では同じ大陸ではなく、また海を跨ぐ必要があると感じていた。

ワイバーン便が開拓していない地域を進む…

その考えの先には、誰もが口には出来ない不安が心の奥底で蠢いていた。



---


不安を抱えたまま、遠くに広い海が見えてきた。

青く光る水面は太陽にきらめき、波が静かに打ち寄せる。


しかしその果ては見えず、どこまで進めば良いのか分からない。

胸が高鳴ると同時に、不安が忍び寄る。


広大な海は、私たちを飲み込むのか。

それとも――希望を抱かせるのか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ