第二十四章 任務
「コリン、どうしたいとかあります?」
「今は上には興味はないかな」
ヴァイスの居ない二人の個室、部屋の灯りを落とし眠る前に本心を尋ねてみた。
「私もです。Gランクで報酬を貰っても…この宿に一晩寝たら無一文なのが恐ろしい」
コリンも私の考えと同じだと言う確認はできた。
ただ、物価の高さは私の予想を超えていた。
Gランクの肉体労働の日当は銀貨一枚。
泊まっている宿は寝台付き個室、朝夕の食事付が一泊で銀貨一枚。
――これでは働いてもすぐ消えてしまう。
Gは論外としても、Fもわずかに手元に残る程度。Dが混ざるEこそが、街で寝泊まりしても利益を得る現実的なランクだと、ヴァイスの意図を理解した。
翌朝、ヴァイスはイリスと街の外へ出掛けた。私とコリンはギルドで予定通り初めての依頼を受けることになった。
今夜も宿屋に泊まるのは決まっていたが、日暮れ前にはヴァイスが宿に戻ると聞き、待機をしておく。
ギルドに入ると、掲示板から自分たちのランクに見合う依頼を探す。常駐依頼は毎日出されるもので、剥がさずとも誰でも受けられる。Gランクは街の清掃や商家の配達、他のギルドへの伝達など、雑用に近い依頼ばかりだ。
「これ、どうですか?」
コリンが見つけたのは農場の魔獣駆除。ネズミより大きい害獣で、魔物に分類される。数によって報酬が変わり、被害が拡大しないのなら魔法も使用できる依頼だ。
「良いですね。これにしましょう」
混み合うギルド内を人々の間を縫って受付へ向かう。受注すればその場で登録される。
「では、受付ました。初めての依頼なので説明しますね。依頼主の所へ行き被害を聞く。最低でも十匹。ただ、それ未満でも依頼主が状況を判断し続行か達成かを決めます。魔獣なので気配を察して出てこない場合もあるんですよ」
「解りました。今から行っても大丈夫ですか?」
「ええ、指定がないのでこの受注証を見せれば分かります。何度か依頼してる方なので」
礼を述べてギルドを出る。魔法を使えない場合は道具が必要だが、狩りの必要な道具や装備も背負っている鞄に入れている。
問題はない。これも、ヴァイスに言われた冒険者の心得だ。
街を出てすぐ、見える場所にその農場はあった。早足で進み、依頼主の元を訪ねた。
「はい、確認しましたよ。じゃあ、来てくれるかい?」
農場を営む恰幅の良い主人に案内されて進むと、気配探知に数多くの反応がある。その中でも最も反応がある倉庫へ案内された。
「大量発生しててな…出来れば十一以上頼みたい」
目には見えないが、倉庫内は被害から見ても解る有り様だ。
「解りました。魔法を使うので外で待っててもらえますか?」
「そうかい、それは期待出来そうだ。終わったらさっきの所へおいで」
主人に見張られるかと思ったが、そうではなかった。手を振り戻る後ろ姿を眺めつつ、私はコリンへ目配せし、人目の届かない位置へ移動する。
魔物とは呼ばれない魔獣にも核はある。しかし、反応は小さい。しかも、倉庫内で大きな魔法は使えない。
「多少、逃げ回るのは覚悟でやりましょうか」
「解った、外に出ないよう見とくよ」
これまでの狩りで意思の疎通をしてきた仲だ。コリンも即座に必要な動きを判断した。私は気配に集中し、小さな反応一つひとつを魔力の網で拘束した。
「…回収します。まだ生きてるので水で窒息させてから袋に入れます」
「解った」
魔力の網で捕らえたのはネズミの魔獣チラス。ネズミより大きく兎より小さい、狩りの得意な猫でもこの大きさでは駆除は難しい厄介な害獣だ。
倉庫内はチラスの糞尿の匂いが充満している。それも強烈で、食い荒らされた食料は全て廃棄せざるを得ない。広い規模を持つこの農場での被害が及ぼす影響の深刻さは容易に想像できた。
集めたチラスを纏めて水で囲い窒息させた後、核を取り出す。噛まれれば菌に感染する可能性があると考え確認すると、やはり正解だった。罠に掛けた方法では依頼を受けた側も健康を損なう事が予想できる。
チラスの核は米粒程度の大きさをしていたが、個体によって微妙に異なる。討伐したチラスの数は依頼主が数え、想定した数より多ければ契約額に上乗せされる。死骸はその場で処分され核は私達の追加報酬となり持ち帰る事が許された。
「助かったよ。出来たら明日も頼みたいが…まあ、気が向いたら受けてくれ」
「はい、解りました」
こうして初めての依頼は終わった。
規定の裏で交わされるこうしたやり取りもまた、冒険者の日常なのだと納得した。




