第二章 意地
…横たわっていた人…すでに亡骸だった。
目の前が霞む。この子はあとどれほど耐えられるだろう。
(絶対に、こうはなりません。私があなたに生きる術を教えます。だから……一緒に歩きましょう)
だから一緒に進みましょう。
亡骸となった彼には申し訳ない。だが、これは仕方がない。本当にすみません。
事実を受け入れると、この子もまた彼と同じ運命に重なりかけていた。
大人でさえ倒れるこの街で、この小さな身体がまだ動いていること自体、奇跡だった。
細い路地を抜けると、高い壁が見えた。
人の流れを見て、間違えないよう進行方向を探る。
わずかな時間でも、この子にとっては長い。
外へ出るための門。門番も立っているが、街中より外の方が都合がいい。
門番は見て見ぬふりをしていた。
それはありがたい。通してくれる方がこちらには好都合だった。
(もう少し……もう少しです。私もいますから、一緒に……頑張りましょう)
子どもの小さな足が、確実に前へ進む。
あなたが諦めないのなら、私は必ず救える。
人の通った跡の草を避け、あえて長く人が通っていない茂みに踏み入る。
……服装、気候、新芽。春の半ば。
自然の恵みが何かあるはず。
私、野草には興味があって……油で揚げると美味しいんです。
あなたにも、食べさせてあげたい。そう思いました。
枝の折れる音。背後に気配がある。
街中でも良かったはずなのに、なぜここまで来るのか。考えたくはない。
どうせ抵抗する力も残っていない。
だったら、せめて食べてからにしましょう。
何か食べさせてあげないと……。
棘の枝に赤い実。知っているものに似ているが、葉の形が違う。
動物が食べた痕跡がある。ならば食べられるだろう。
食べられるのなら何でもいい。そう手を伸ばしかけた時――
■■■■■
ポポンの実
苦味が強い
毒無し
■■■■■
……そう、教えられた。
都合がいい。実をもぎ取り、口に入れる。落とさぬよう気をつけながら。
確かに苦い。だが今は、その味さえも美味しく感じる。
ゆっくり咀嚼し、小さく噛み砕く。胃に負担をかけないように。
後をつけてきていたのは――私と同じくらいの子どもだった。
彼にも実を分け、噛むように伝える。
実を受け取る彼の手は震えていた。
可哀想に。彼もまた、苦味さえ我慢できるほど腹を空かせていたのだろう。
早く飲み込もうとするので、私は止めた。
「ゆっくりと、小さくなるまで」
彼は頷いた。理解したようだ。
それから二人、黙ってポポンの実を食べた。
「……これで終わりにしましょう。多く食べても駄目です」
刺激の強いものは怖い。当面の水分、少しの空腹は解消された。
残りを持ち帰るよう、彼にも伝えた。
……耳が尖っている。
私もそうなのだろう。
自分の耳に触れようとした仕草に、彼は怯えた。
良くないのだろう。大丈夫だと伝え、落とした実を拾う。
「寝られるところ、知っていますか?」
返事はない。だが案内してくれることは伝わった。
彼の後ろをゆっくりと歩く。彼もまた、ゆっくりと。だが来たときよりは早い。
彼の普段の寝床――岩と岩のわずかな隙間。
風は前から吹きつけ、床は土。
今着ている布よりもさらに細かく裂かれた布切れ。それが彼の全ての持ち物なのだろう。
明日も、ここを借りることになるかもしれない。
私には帰る場所も、知り合いもいないのだから。
枯れ葉をかき集め、剥き出しの土を覆う。
直接触れるよりはましだ。
火を起こせればよかったが、体力はもう限界だった。
彼が独りで眠っていた場所は、二人で寄り添うのにちょうどいい。
身体を寄せ合い眠る。
彼の体温が、「独りじゃない」とわかりやすく教えてくれる。
「……おやすみなさい」
そうお願いし、瞼を閉じる。
そしてすぐに、深い眠りへ落ちていった。




