第十八章 財源
深い森を進むのも一苦労だった。それでも旅の資金の為にと私は意気込んでいた。進む先の更に奥、大きな気配があった。
「…でかいな」
ヴァイスが示した先には、大蛇の魔物がとぐろを巻いていた。頭は見えず、尻尾がこちらに向いている。
「やれるか?」
「はい」
蛇は冷気に弱い。私は氷の魔法で体温を奪った。初めて使った頃は制御できなかったが、今は状態変化を緩やかに進めることができる。
大蛇は徐々に凍りつき、気配を探る魔法でも動きは感じられなかった。
「確認してきます。魔核は額でしたね」
「そうだ」
鑑定するとその名はブラックバイパー。魔核は額にあると示されていた。未知の魔物は必ず自分の目で確かめると決めている。
首が持ち上がっていたのは幸いで、額の瘤に深い傷を付けると冷たい魔核が現れた。核を抜けば絶命する――経験から学んだ知識が裏付けられた。
「ブラックバイパーか。滅多に出ない大物だ。その分素材は惜しくなるがな」
ヴァイスも近づき全貌を確かめ、持ち帰れぬ素材を残念がった。
「皮が高値でしたよね?」
「そうだ。出来るか、コリン?」
「はい、任せて下さい」
私は凍結を解き、コリンが巻きついた胴を伸ばして切り開く。丁寧に皮を剥ぎ取る姿をヴァイスが確認し、売値の高さを思ってか顔が鋭さを増した。
「イリスにも食わせるか。大型の魔物は旨いらしい」
「そうなんですか?」
「イリスだけかも知れん。自分でも狩れるが滅多に出ないからな」
笛を吹くと空から羽ばたきの音が近づき、イリスが降り立った。皮を剥いだ肉を与えると夢中で食らいついた。確かに食い付きが違う。
「な?いつもと食いっぷりが違うだろ」
「何か魔物が好む成分があるのでしょうか?」
「魔力じゃないか?」
「ああ、なるほど。魔物は魔力を好む……理屈が合いますね」
魔物の森は魔力を多く含む大気で満ちている。魔物の生態は謎が多いが、魔物の素材にも魔力は定着している。
濃い魔力の領域を好むのは観察と検証で裏付けられていた。イリスの食欲を見て、魔物が肉体だけでなく大気からも魔力を栄養としているのだと理解できた。
ただし、その外部の魔力が人体に害を及ぼす兆候は今のところない。血液を鑑定しても魔力の痕跡はなく、動物にも確認されなかった。結論として、人にとっては単純に魔物の肉が単に美味しいだけであり、魔力を有しているから味わいが変わるわけではない。
「勿体ないが……もう持てねえな」
「幾らになるか楽しみですね」
「値段によっちゃ魔道具も買うか」
「魔道具……ですか?」
「そうだ。道具に核を使えば魔法効果を持つ魔道具になる」
説明は簡潔に留めたが、実際は複雑な仕組みだとヴァイスもそこまでは詳しくは無いと言った。
「普通の灯りと魔道具の灯りでは十倍以上の差がある」
「それは高価ですね」
「装飾にも凝るからな。差は目安だと考えろ」
(魔道具……家電のようなものだろうか)
これまでの経験から見えた文明は未発達だと思っていたが、魔法を応用できれば容易に意識にある文明の差を越える。
(魔道具……興味深いな)
「ネアム、ぼけっとすんな。行くぞ」
「すいません」
興味深い話題に思わず立ち止まってしまったことに気づき、慌てて後を追った。




