第十七章 破財
土砂崩れを引き起こした長雨がようやく止んだ夜、ヴァイスも交え洞窟の前で夜営をした。湿った土の匂いが漂い、夜風が森の奥から吹き下ろしてくる。
長く続いた雨に洗われた空には雲がまだ重く残り、星はわずかにしか覗けなかった。イリスも寝床を失い、近くの荒れ地で翼を畳み、身を休めて一夜を過ごした。
翌朝、湿り気を帯びた冷たい空気の中で今の状況を整理することになった。避難の際にヴァイスの荷物を持ち出していたため彼の大切な品は守られていた。
しかし、蓄えていた魔物素材の大半は失われ、今は彼の手持ちだけが頼りであるという現実は変わらない。
「金は直ぐに稼げるが、毎回宿屋を使うより魔物を狩って街で売り、その金で夜営用の物を整える方がイリスの負担にならん」
「解りました」
コリンも静かに頷いた。ヴァイスは行き先を決めずとも、方法を定めるとすぐに魔物狩りへ向かうよう指示を出した。
「ずっと雨宿りしてたから、イリスも腹減ってるだろう」
「それは可哀想ですね」
「じゃあ、行くか」
既に待機していたイリスに歩み寄り、背に乗せてもらう前に私は額を身体に寄せた。無事に帰還できたこと、ヴァイスを守ってくれたこと、その感謝を伝えた。その想いを返す様に触れた額が温かくなった。
「イリス、行くぞ」
ヴァイスの声に応じ、イリスは大きな翼を広げ、旋回しながら高く舞い上がった。
行き先は長雨による被害の及ばなかった魔物の領域。イリス自身の判断でそこへ向かい、日が暮れると地に降りて夜を過ごす。二日後、濃い緑に包まれた深い森に降り立った。
長雨にも屈しない巨木が林立し、その根が地盤を支え災害を防いだのだろう。森は湿潤な空気に満ち、薄暗い中にも生命の息吹が濃く感じられた。
「よし、行ってこい」
ヴァイスの声に応じ、普段は鳴かぬイリスが高く鳴いた。機嫌が良いのだろう。
「狩りはいつも通りだ」
「はい」
植生自体は変わらないが、木々の幹は太く、根が地中深く張り巡らされているのが見て取れる。その深い森の中へと足を進めた足元に絡み付く植生までも、これまでとは違う自然の防御力の強さを物語っていた。




