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第十二章 緊張


「――ただお前らには早い」とヴァイスの指示で気配を消し、警戒を強めていた。


その直後、後ろにいたコリンが枝を踏み、かすかな音が響いた。瞬間、ホーンラビットは頭の角を向け突進態勢に入った。


「―ッ突っ込んでくる。横に跳べッ」


ヴァイスからの短い指示が飛ぶ。振り向くと、動けず腰を抜かすコリンの姿があった。


「コリンっいやだ!」


その瞬間、コリンへ鋭い角が届く寸前だった…その姿のままホーンラビットは氷に覆われていた。


冷気の霜柱が私とホーンラビットを繋いでいる。森の静寂を切り裂くように、大気中の空気が震え、肌に触れる冷気が緊張をさらに強めた。イリスはその変化を敏感に捉え異変を感じた方へ身を翻した。


何が起きたかは解らないが私は動けないコリンへと咄嗟に駆け寄った。


「コリン!」と声を張りながら彼の腕を掴んだ。焦点の合って無かった目が私の声に反応し正気に戻った。コリンも慌てて私が掴んだ手に自分の手を重ね力強く掴んだ。


互いに息が荒く、体はまだ少し震えている。

そのままコリンを抱き寄せた。呼吸を落ち着けるよう促しながら、背中をさすり彼の震えが落ち着くのを待った。改めて「大丈夫?」と顔を確認すると、顔色は戻り、震えも和らいでいった。


「お前か?」

「…はい」


私たちが落ち着くのを待っていたヴァイスの声で今の状況に気がつく。氷漬けにされたホーンラビットの存在を忘れていた。


「コリン…馴れろ。ネアムには礼を言え」

「はい、ネアム。ありがとう」

「いいえ、無事で良かった」


周囲の森の気配ひとつひとつが、今の状況の緊張を改めて実感させる。


「これ、溶けるか?」

「…かなり、かかるかもです」


氷漬けのホーンラビットを叩くヴァイスが問うが、このままでは冷たくて持てず、解体もできない。今後は威力を抑えるよう忠告された。上空で旋回していたイリスも地上へ降り立ち氷漬けにされたホーンラビットを不思議そうに口の先で興味深そうに触れていた。


「明日も同じだ。ただ、このまま狩れずに手ぶらになろうと一旦帰って仕切り直しだ」


何も成果はないまま私たちは手ぶらで夜営に戻り、改めて今日の反省と明日の計画をヴァイスから伝えられた。


翌朝、凍り漬けされたホーンラビット氷は既に溶けたようで他の魔物に食われ残骸となっていた。


「魔核もないな。あったら小さくても、高く売れるから狩れたら魔核だけは必ず回収しろ」


素材すら使い物にならない魔物はそのまま捨て置かれた。本来なら解体し残った残骸は埋めるか燃やすかするが、ここまで食われていたら必要無いと教わった。

これが魔物の日常。ヴァイスの説明を聞く中で森の静けさが、今日の緊張を改めて感じさせる。


「またか。―ネアム、威力の調整は出来るか?」

「はい」

「やってみろ」


ヴァイスは私の魔法は使えると判断したようだ。

ホーンラビットへ手を伸ばすと、風の刃が急所を正確に斬った。


「見事だ」

「はい」


大きいだけで可愛くもない魔物なら、罪悪感はない。


(私は…狂ったのでしょうか。嫌悪感すら持たなくなった。)


動物にある罪悪感は初日からなく、想像を超えるような恐怖心すら無い。

周囲の冷たい空気が一層、非日常感を強めていた。


「凄いね」

「コリンも出来ますよ」


コリンは素直だ。言葉を教えている身だから理解できる。

彼も私が克服したように、コリンも克服するだろう。

昨日より顔色も良く、震えも止まった彼であれば、何も問題はない。




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