第十一章 魔物
魔法が使えるようになると、生活のあらゆる場面で活用するようになり、日常は格段に楽になった。しかし、ヴァイスの言う通り、魔力の使用は疲労を伴い、時には嫌悪感すら覚えることもある。私の理論が通用しない魔法に対する拒否反応なのだろう。
「どうしたの?」
「すいません、考え事をしていました。」
深く考え込む私の様子を心配したコリンが顔を覗き込み、現実に引き戻された。
「魔物の狩り、コリンはどうしますか?」
「んー、少し怖い」
「そうですか。」
「ネアムは?」
「よく、解りません」
「解らない事があるの?」
「はい、解らない事が多すぎます。」
本当に、どうしたものか。魔法が使えるようになったことで、次にヴァイスが帰宅した際には、彼の魔物素材の仕入れに同行することになっている。イリスの飛行速度で夜営を一日挟み、魔物の生息域へ向かう計画だ。
魔法を使えるのだから、魔物だって存在する。ため息は絶えない。
ヴァイスの説明によれば、この世界には人間の居住域に近い場所に動物が住み、さらに奥深くの森には魔物と動物が混在しているという。ワイバーンは魔物の中でも、人間に育てられると懐く素質があるが、それ以外の魔物はそうではないらしい。
イリスは幼体の頃、ヴァイスが怪我を治療したことで懐いたが、調教されて育ったワイバーンとは扱いが異なる。ワイバーンは魔法を使うことで、風の抵抗を受けずに荷物や人を運ぶ便として利用される場合もある。
魔物ですら魔法を使う。口の中に大きな物を無理やり飲み込む際の息苦しさが、ずっと続いている。
「じゃあ、しっかり固定しろ。落ちるなよ」
「はい」
イリスに乗り、旋回しながら空高く舞い上がった。目は開けず、感覚だけで地上への降下を感じ取るしかない。夜営する場所は普段からヴァイスが使う場所で、手際よく指示を出し、翌日に備えて休むことになった。
翌朝、イリスが飛べる明るさになると、次は魔物の森が目的地だ。空から狙うのではなく、ヴァイスが絆で通じ合うイリスに指示を出し、手頃な場所から歩きながら魔物を探す。
「ここからは、俺たちだけだ。」
「イリスは?」
「イリスは食事だよ食事」
弱い魔物は他の魔物に食われる運命にあると知った。
「この辺りは浅い。居るのも小型で金にならない。指示が出るまでは何もしないこと」
「はい」
私とコリンの頷きを確認し、森の中へ進む。ヴァイス曰く「浅い」とはいえ、充分に深い森だ。針葉樹と広葉樹が混ざり、足元にはシダが生えている。
「ありゃ、スライムだ。弱いが狩るのは割に合わない。酸を出すので面倒だ。」
気配を消すよう指示され、金にならない魔物をやり過ごす。
「ホーンラビット、この辺じゃ高く売れる素材だ。肉も旨い、ただお前らには早い」
気配を消してやり過ごせとヴァイスからの合図があった。
足元の落ち葉を踏む音も、風の揺らぎも、すべてが戦慄の予兆に思えた。目を開けずに、感覚だけで空気の流れを読み、ホーンラビットの動きを警戒する。




