第一章 理由
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違和感。これまでに体験したことのない感覚。
痛み、途切れる呼吸、喉の渇き、胃が軋むほどの空腹感。
それに……なぜ。私は……。
様子がおかしすぎて、思考が停止してしまう。
今の状況を理解するより、まずは生き延びる事を考え無いといけない。
そう判断し、なんとか身体を起こそうと力を込める。だが無理だ。
手を曲げ、身体の下に差し込むと――
小さな……手だ。
また、思考が止まりかける。だが精神力で押しとどめる。本能が背中を押していた。
震える小さな手が、必死に私を起こそうとしている。
私の知らない、小さな手が。
何とか上半身を起こす。壁に身を預け、足を奮い立たせて立ち上がる。
ふらつく視界の中、自然と明るい方へと向かっていった。
(大きな……通りですね。きっと人の助けがあるはず……そうであってほしい)
光景は、さらに異様だった。けれど今は、まだ考えるべきではない。
(……ああ、そうですか。わかりました。なら、私がやります)
通りを行き交う女たち。子どもの手を引く姿もある。
だが――彼女たちの目は冷たい。
死にかけている子どもに誰かが手を差し伸べてくれるのでは?
そう期待していた。
だが、あの目はそうではない。
であれば、この少年を救えるのは私しかいない。いや、救わなければならない。
私であって、私ではない存在。ならば私と少年。そう考えると妙にしっくりきた。
来た道を引き返す。無駄足を踏ませてしまい、申し訳ない。
でも必ず。私があなたを救う。
目的の方へ重心を倒す。
倒れかける身体を、あなたの足が前へ進める。
私の意思がそうさせているのかもしれない。
ゆっくりと、暗い路地へ進む。
路地はさらに細く、太陽の光もかすかにしか射さない。
その奥には、人が横たわっていた。




