第九十五話 突発的に幼女と出会った理由
ハッキリ言って自業自得だと思う。
だって、真田才賀は兄として一方的に愛を押し付けるだけで、当人の意思をまるで尊重しない。
だからさやちゃんは、実の兄を疎ましく思うと同時に……理想の兄に対して、強い憧れが芽生えていたのかもしれない。
「あなたは、さやのお話を最後まで聞いてくれます。兄はいつも自分の話ばっかりで、さやはうんざりしていました」
本当は、兄にちゃんと話を聞いてもらいたかったのかもしれない。
「兄はさやを困らせてばかりなんですよ? 迷惑ばかりかけられています」
きっと、困ったときは助けてほしいという気持ちもあったのだろう。
「好きな食べ物を、好きに食べさせてほしいです。兄はこれが美味しいとか、あれが体に良いとか、そうやってさやの代わりに色んな事を決めてくるので、そういうところも嫌なのです」
もっと自由にさせてほしい。自分の意思を尊重してほしい。
そういう、さやちゃんの本心がにじみ出ていて……やっぱり、拒絶する気になれなかった。
「今日の出会いを神様に感謝したいと思います。あなたがさやの本当のお兄さまだったのですね」
「そ、そうなのかなぁ」
もちろん違うと思う。
でも、まぁ……うん。この子は日常で真田に苦労させられているはずなので、少しでも心の癒しとなれたら、それでいいか。
「お兄さまは落ち着いているので、一緒にいるとリラックスできます。安心感がありますね」
「そうか?」
「はい。とても兄と同い年だとは思えません」
……子供の勘、だろうか。
素直であるが故に、俺の内心が透けて見えているのかもしれない。
いや、あるいは俺がそもそも不自然だからだろうか。そういえば最上さんも俺を『大人びている』と評していたし、氷室さんも態度に違和感があると言っていた。
心と体の年齢の乖離は、言動に微かな歪みを生んでいるのか。
まぁ、それで支障が出ているわけではないので、別にいいのだが。
「落ち着いている人の方が良いんだな」
「そうだと思います。さやも、あまりテンションが高いタイプではないので」
「じゃあ、今度最上さんも紹介するよ。俺と似た性質の子だから、きっと君も気に入ると思う」
どうせ、俺は彼女と一緒に過ごしていることが多い。
いつかさやちゃんと知り合うことになると思うので、今のうちから話題に出しておくことにした。
「……兄の狙っている女の子ですよね? 兄の関係者とはあまり会いたくありませんが」
「大丈夫。むしろ、最上さんも君の兄はあまり得意じゃないみたいだから、相性はいいかもしれない」
「――わぁっ。そ、そんな素敵な人がこの世に存在していたのですね……さやだけが兄を大嫌いなので、世界がおかしいと常に思っていました。兄が嫌いということは、さやの仲間です」
そ、そこが判断基準なんだ。
真田才賀が嫌いか、否か。それがさやちゃんの人間の好みなのかもしれない。
「あのっ。お兄さま、またぜひ会いたいので……連絡先を教えてもらえないでしょうか」
「いいよ。困ったことがあれば、いつでも連絡してくれ」
「……や、優しいです。なんか泣きそうになります。家出した時とかに連絡しますね」
「それは、あれだな。要相談だ」
やはり最上さんにいち早く紹介しておきたいところだ。
さすがに、幼女を我が家に匿うわけにはいかない。そういう時は同性の最上さんに頼った方が穏便に済むだろうし。
と、考えながらスマホを操作して、連絡先を交換。
その際に、どうやらさやちゃんは俺の画面を見たらしい。
「お兄さまは、SNSもやっているのですか?」
「SNS……? あ、これか」
インストールされたてっくたっくのアイコンを見たようだ。
普段はSNSをやらないので、最初は何事かと思ったが……そういえば、今はもうSNSをやっていることになるのか。
「お兄さまも踊るのですか? あ、それとも、兄みたいに変態さんで女子高生ばかり見て――」
「違う違う。実は――知り合いのアカウントを手伝っているんだ」
真田と一緒にされそうになったので、きちんと訂正しておいた。
別に、何か意図があったわけではない。
「そうなのですか? 実はさやも、SNSはやってます。こう見えて、フォロワーさんは十万人くらいです」
「じゅっ……!?」
ただ、偶然――こんなつながりになるとは思わなくて、驚いた。
なるほど……そういうことだったんだ。
(唐突に出会ったなと思っていたんだが……この子が、助言者だったのか)
SNSについて困っていた。
誰か、相談できる相手が欲しいなと思ったところで出会った幼女が、うってつけの存在で。
こんなご都合主義な展開が起きたことに、驚いてしまう。
(……やっぱり、メインヒロインは違うな)
俺のような脇役や、それから最上さんのような元モブヒロインとは違う。
神から愛されていると錯覚するようなイベントが、突発的に生じる。
さやちゃんこそが、氷室さんのアカウントを人気にする重要な役割を果たす存在のようだ――。
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