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第九十四話 毒兄

 ……そういえば、単行本のあとがきでねこねこ先生がこんなことを書いていた。


『実は私も実の兄がいます。イタズラばかりされて子供の頃はずっと苦手でした。さやちゃんと一緒です。大人になった今はそうでもないのですが』


 その文章をふと思い出したのは『真田さや』というキャラクターがテンプレから外れていたからだろう。

 真田や氷室さんなど、各種主要キャラクターはほとんどがテンプレ的な属性をあてはめられているのだが。


 しかし、さやちゃんだけは違った。

 この子だけは生々しいというか、言動が『普通の妹っぽい感じ』だったなと、思い出したのである。


 仮に、他のヒロインと同じように『主人公教』の信者だとすれば、真田に愛されることを至上の幸せとするはずだ。しかしさやちゃんは兄に対して常に否定的で、それがこのテンプレラブコメでは不自然だったのだが。


 実際に接してみて、なんとなく分かったことがある。


(たぶん、ねこねこ先生のリアルが混在しているキャラだな)


 全部ではないが、一部……自己投影が混じっている。

 そういうキャラには血が通いやすい気がする。他の作品にはないような独自性が出て、ユニークな言動をする。


 それが面白さとなっていたからこそ、さやちゃんは登場回数が少なかったにしては人気を保っていたキャラだったのかもしれない。


 なんてことを、創作なんて一度もしたことない批評家気取り代表読者の俺は語りたい。

 まぁ、一個人の感想なので的外れでも許してほしい。こういう考察をするのが好きな古いタイプのオタクなのだ……と、しばらく考えながらコーヒーを飲んでいたら、ようやく彼女の気分が落ち着いたようだ。


「すみません。取り乱しました」


 既にパンケーキは食べつくされている。

 ただ、先ほど追加で届けられたフルーツタルトは半分ほど残っていて、それを大切そうに彼女は一口食べた。


「ありがとうございます。このフルーツタルト、美味しいです」


「それは良かった」


「……あなたは優しいです。すみません、兄と同じ変態だと思っていましたが、訂正します」


「いいよ。気にしないで」


 首を横に振ると、ようやくさやちゃんは小さく笑ってくれた。


「えへ。えっと……そういえば、お名前を聞いていませんでした」


「俺か? 俺は――」


「――お兄さま、でいいですか?」


「え」


 いや、ちょっと待て。

 君、実の兄にも『お兄さま』って言わないよな?


 真田を呼び掛ける時は『あの』とか『ちょっと』とか絶対に名前すら言わないし、他人と真田について話す時も『兄』としか言わない。『お兄さま』と呼ばれることを夢見て、真田はさやちゃんに好かれようと必死な節もある。


 それなのに、俺をそう呼んでしまうと……まずいぞ。


「その呼び方は……君の兄に殺されるかもしれない」


「さすがの兄もそこまではしないと思います」


 そこまでするのが、君の兄だぞ。

 重度のシスコンを舐めない方がいい。あいつは妹の嫁入りを全力で邪魔するタイプの毒親……ならぬ、毒兄だ。


「お兄さまは、ダメですか?」


「れ、冷静になろう。俺はほら、君の兄になれるような資格とかないから」


「それでは……おにーちゃん、ですか?」


「方向性だ。さやちゃん、ベクトルって分かるか? 変化の向きを変えたい」


「……にーにー、とかどうでしょう?」


「沖縄風になっただけだ」


 ちなみに、沖縄では親戚のおじさんを『にーにー』と呼ぶ習慣がある。

 どんなに年を重ねても、おじさんと呼ぶことが少ない。という雑学はどうでも良くて。


「……嫌、ということですか?」


「それは違くてっ」


 俺がなかなか頷かないからか、さやちゃんがちょっと落ち込みそうになっていた。

 そんな顔をしないでほしい。罪悪感で胸が苦しくなるから。


「わ、分かった。呼び方はなんでもいいから」


 結局、こうなるわけだ。

 否定するとさやちゃんを悲しませるので、俺は根負けして頷いた。


 すると、彼女は途端に笑顔になって……嬉しそうに、頷いてくれた。


「良かったです。えへへ……さや、ようやく見つけました。あの兄はニセモノで、あなたが本物のお兄さまだったのですね」


 そ、それは違うと思うが。

 でも、まぁ……いいや。


 真田に気を遣う必要なんてないし、さやちゃんも可愛いし、懐かれて悪い気分はしなかった――。


お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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