第九十三話 主人公の妹がみんな兄を好きだと思うなよ
なんやかんやあって、小学生の女児とティータイムを過ごしていた。
……客観的に見ると、あまりにも状況が変な気がする。
まぁ、成り行き上でそうなったので仕方ないが。
「あむっ。もぐもぐ……んっ♪」
パンケーキを一口食べて、さやちゃんは目をキラキラと輝かせていた。
俺と話している時は基本的にジト目でどんよりしていたので、明るい表情が見られてなんだか嬉しい。
「パンケーキは好きなのか?」
「……さやの好きな食べ物を知ってどうするのですか? それを餌にして脅迫を企んでいるのですね?」
「なぜそうなるんだ……」
発想がぶっ飛びすぎている。
そんなことする人間はいないと思うが。
「兄がそうやってよく脅してくるのです。さやが大好きなたこ焼きとかを餌に、頭を撫でさせろと要求してくるので……不愉快なのです」
「あいつのせいか」
クソ野郎め。
そういえば、この前のショッピングセンターで鉢合わせになった際、真田はたこ焼きを買いに来ていた気がする。湾内さんは『妹が大好きなたこ焼き屋さんがあるから、毎週このショッピングセンターに訪れる』とかなんとか言っていた。
その時は、ただシスコンなだけかと思っていたが。
「あなたも似たような手口で、さやを湯たんぽの代わりにしようとしているのではないですか?」
「そんなことはしない」
真田才賀はヤバすぎるタイプのシスコンだった。
妹のさやちゃんが可哀想すぎる。愛情が一方的すぎるから、この子も一切懐かないのだろう。
漫画ではもう少しマイルドだった気もするんだけどなぁ。
ただ、時折登場するさやちゃんが真田にまったく好意を抱いていないことは、気になっていた。
裏でこんなことをされていたのなら無理もない。
「……そうですか。あなたは兄みたいに、さやに下心があるわけではないのですね」
「あ、あいつも、下心までは……」
ない、よな?
思わず擁護しそうになったが、真田才賀なら有り得そうで言葉を言いよどんでしまった。
まぁ、とにかく。
「俺は真田……君の兄とは違うぞ。どこにでもいる、ごくごく普通の一般的な男子高校生だ」
少なくともステータス上はそうである。
注釈として、転生していたり、この世界が創作物であることを知っている、など変な補足もあるが……目に見えるプロフィール上は脇役なので、嘘は言っていない。
「男子高校生はみんな、兄みたいな変態さんではないのですか?」
「うん。君のお兄さんが特別なだけだ」
「……花は咲く場所を選べません。でも、兄は選ばせてほしかったです。さやは自分の不幸が悲しくて涙が出そうです」
その点で言うと、心から同情した。
あまりにも可哀想すぎるので……もう真田才賀についての話題は、終わりにしてあげよう。
真田が話題になったせいだろう。パンケーキを食べる手も止まっていて、表情も暗くなっていた。
閑話休題だ。
「さやちゃんは、ミルクティーが好みなのか?」
「いえ。一番好きというわけではありませんが、甘い飲み物は基本的に大好きですね」
つまり大好きってことだよな?
警戒されているのだろうが、なんだかんだ答えてくれてはいた。
好みの話は、雑談として非常に優秀だ。
先程は警戒されていたが、俺に敵意がないことも分かったのか、さやちゃんも素直に教えてくれたので良かった。
「甘党なんだな」
「それがどうかしましたか?」
「いや……最上さんも、ミルクティーを飲んでいたなと思って」
「もがみさん? あ、もしかして――兄に狙われている可哀想な女子でしょうか」
あれ。この子もどうやら、最上さんを知っているようだ。
「兄がよく家で話しているんです。さやに恋の相談がしたいとか何とか言って、聞いてもいないのに最上風子という方について色々と語るのですが……勘弁してほしいです」
「しょ、小学生の妹に、恋の相談って……」
大丈夫か、あいつ。
あまりの行動にちょっと引いた。
「十歳の少女に相談されても、困ると思いませんか?」
「心から同意する」
「だいたい、さやは兄のせいで異性に対して不信感を持っているのです。兄の影響で男の子なんてまったく好きになれません。さやの人生が変なのは、だいたい兄のせいです……ぐすっ」
「な、泣かないで。ほら、パンケーキでも食べて」
「ひぐっ……食べましゅ」
ダメだ。何を話しても、話が真田才賀に繋がってしまう。
それくらい、さやちゃんの人生をあいつが浸食してしまっているのだろう。
あまりにも可哀想だったので……俺はお手洗いに行くふりをして、店主のおじいさんに追加でフルーツタルトも注文しておいた。
これを食べて、少しでも元気になってくれるといいんだが――。
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