第九十一話 シスコンの主人公にバレませんように
さやちゃんは家の鍵を持っていないので、家に入れないらしい。
だから、鍵を持っているであろう兄に会うために高校に向かっていたようだ。
その道中で、俺と出会ったというわけか。
「あ。うちの兄を知っているでしょうか。真田才賀という名前です。特徴は、ろくでなしで、過保護で、過干渉で、変態さんです」
ネガティブな特徴しか列挙されていないのはさておき。
もちろん、真田才賀についてはよく知っている。
「同級生だよ。クラスは違うが」
「そうなのですか。つまり、あなたも変態さんですか?」
「同学年であって、同類ではない」
一緒にしないでほしい。
少なくとも俺は、いくら妹がかわいくても一緒にお風呂に入ろうとしたりしないからな。まぁ、転生前も今も一人っ子なのだが、それはさておき。
……さて。
少し会話してくれるようになったとはいえ、さやちゃんは未だに俺を警戒している。その証拠に、今も距離が三メートルくらい空いていた。会話する距離ではないと思うが、こればっかりは仕方ない。
恐らく、真田のせいで男子高校生は危険だと思われているのだろう。
しかし、それでもなお俺に頼ったということは、それだけ困っているというわけで。
あまり彼女を怖がらせないよう、さっさと協力して解決してあげようか。
そう思って、早速スマホを取り出した。
「とりあえず、まだ学校に残っている同級生に真田について聞いてみるよ。まだいるなら、伝言を頼もうか?」
「いえ。鍵だけ受け取れたらいいです。さやから兄に伝えたいことはありません」
「……そうか」
たぶん、無理だと思う。
さやちゃんが近くにいると知ったら、真田は即座に駆けつけてくるだろう。
それくらいあいつはシスコンなのだ。
(最上さんに聞いてみるか)
幸か不幸か。俺が唯一連絡先を知っている最上さんが学校に残っているので、早速メッセージを送ってみた。
ただ、補講が開始していたら返信がない可能性がある。その場合は、実際に学校に行かないといけないなぁ……と思っていたら、すぐに返信が戻ってきた。
『真田君ならいないよ? どうかしたの?』
まだ補講前だったのだろうか。ひとまず連絡がついて良かった。
ただ……真田の妹と鉢合わせになった、という情報をメッセージで伝えるのは長文になりそうだったので。
ここは、少し内容を端折るか。
『真田の忘れ物を見つけてな。本人がいるなら届けようかと思ったが、いないなら後日にする』
さやちゃんを真田の忘れ物と表現する是非はさておき。
まぁ、嘘はついていない。内容も変ではないので、最上さんも違和感はなかったのだろう。
『そうなんだ。じゃあ、そろそろ補講が始まるから、また明日ね』
『ありがとう。補講、がんばれ』
『うん! がんばる!!』
と、最後にかわいいスタンプが届いたのを見届けてから、メッセージアプリをオフにした。
最上さんとのやり取りはいつも朗らかな気持ちにさせてくれる。
と、いうわけで。
「真田は学校にいないらしい。もしかしたら、すれ違いになったんじゃないか?」
率直に情報を伝えると、さやちゃんは不満そうに唇を尖らせて唸った。
「うぅ~。そうなのですか……」
何やら難しそうな表情を浮かべていた。
どうしたのだろうか。
「はぁ。だいたい、鍵を忘れたのも兄がさやのベッドに忍び込もうとして、それを防戦していたせいですよ? おかげで準備の時間がなくて慌てていたので、うっかり鍵を入れ忘れました」
「それは……可哀想に」
「それなのに、わざわざ兄のところまできてすれ違いになるなんて、納得できません」
「たしかに、無駄足になっちゃったからな」
「はい。意外と遠くて疲れました。まったく……兄はどうしようもありません。どうでもいい時に鬼みたいに連絡してくるくせに、どうしてこんな緊急時に連絡を返さないのでしょうかっ」
「うわぁ……」
だいたい全部、真田のせいだった。
連絡もつかないのか。真田は何をしているんだ……!
さすがに、さやちゃんには同情せざるを得なかった。
移動と、それから心労で疲弊しているのだろう。疲れが顔に出ている。
……俺と話すことも、きっと緊張していたことだろうし。
そろそろ別れてあげた方が、この子のためになるかもしれない。
やっぱり、真田と同じ年齢の男子高校生は苦手にしているようにも見えたので、過干渉はしないよう気を付けることにした。
「じゃあ、俺はそろそろ行くよ」
「……どこに行くのですか?」
「喫茶店だが」
「――行きます」
「え」
あ、あれ?
最初は、俺に対して強く警戒していたのに。
「休憩したいので、ちょうどいいですね」
なぜかさやちゃんも一緒に、喫茶店に行くことになった。
もちろん、俺は別に構わないのだが。
(シスコンのあいつにバレたらどうなるんだろうか……)
もしかしたら激怒されるかもしれない――。
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