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第八十九話 妹ちゃん登場

 処女作は稚拙そのものだった。


(酷いな、これは)


 アプリを使って動画を加工して、音楽を合わせて、そこまでは簡単だったのに。

 しかし出来栄えを見て、思わずため息をついてしまった。


(単純に見づらいな。夕日が逆光になっているから表情も分からない。距離が遠くて動きも分かりにくい。画角も、あとは手ブレも……)


 自分の部屋で、色々と考えながら動画加工アプリをあれこれいじってみる。

 昨今の若い子でも簡単に使えるよう、UIが整っていて操作自体は分かりやすい。機能こそ多いが、巧みに使いこなさずとも人気の出る動画は作れると思う。


 ただ、今回はあまりにも撮影方法が稚拙すぎて、加工してどうにかなる段階ではなさそうだ。


(あと、もう少し氷室さんにも動きを大きくしてもらった方がいいのか……?)


 他の投稿動画を眺めながら、比較して、分析してみる。

 しかし、考えすぎていたら頭が痛くなったので、もう細かいことは気にせず投稿してみた。


 アカウントのフォロワー数は、現在0人。

 あ、そうだ。アカウント用のプロフィール画像の写真も撮っていない。明日にでもお願いして撮らせてもらおう。


 すぐに人気が出るとは思っていない。

 徐々に、じわじわと伸ばしていければ、いつかバズって爆伸びする可能性がある。

 その時に、視聴者の見応えがある動画が作れていれば、多くのフォロワーを獲得できるはず。その時のために、今は慣れていく段階の時期だ。


 毎日投稿できるように努力しよう。

 そう思って、スマホの電源をオフにして、ついでに部屋の電気も消した。

 いつの間にか夜も遅くなっている。そろそろ眠って、明日の学校に備えよう――





 朝起きて、なんとなくSNSを起動してみた。

 別に何かを期待していたわけじゃない。ただ、きちんとアカウントが動いているか確かめるため、という目的だったのだが。


『再生回数:357』


 昨夜投稿した動画の再生数を見て、驚いてしまった。


(ん? この段階で、こんなに再生されているのか……?)


 このアカウントはまだ準備段階だ。

 プロフィール画像も、なんならプロフィールの記入すらほとんどないアカウントである。

 しかも動画のクオリティは低く、決して見られたものではない。

 だというのに、三桁を超える再生数がある。それが信じられなかったのだ。


 もちろん、人気とは程遠い数字だ。

 インフルエンサーの再生数と比較なんてできないほどの小さな指標である。

 ただ、この段階の再生数なんて二桁しかないと思っていたので……その結果に、少し鳥肌が立った。


(やっぱり、あの子は本物だな)


 氷室日向という少女の持つ華は、予想通り……多数の人間を魅了する。

 別にコメントがついているわけではないし、フォロワー数が増えたわけでもない。オススメやトレンドに浮上しているわけでもない。


 何の足掛かりもない状態なのに、既に数字が存在している。

 この事実に、俺は気を引き締めた。


(――俺次第だな)


 氷室さんが伸びるかどうか。

 彼女に人気が出るかどうか。


 それは、このアカウントの管理とかじ取りをする俺のやり方次第になりそうである。

 素質はやはり申し分なさそうだ。


(うーん。ゆっくり勉強すればいいかと思っていたが……悠長なことも言ってられないか? 誰かに教えてもらえるといいんだが)


 俺は肉体こそ高校生だが、精神的にアラサーの成人男性。正直、てっくたっくという文化の把握に少し苦労している節もある。


 こういう時は、詳しい若い子にアドバイスをもらえると嬉しいんだけどなぁ。

 技術的な問題は努力で何とかなる。だが、若い感覚を養うのは難しい。その問題を手っ取り早く解決するためにも、一人くらい協力者がほしかった。


 ただ、最上さんには内緒にしている上に、あの子は時代に疎いので最新のSNSなんて知らないだろう。湾内さんは詳しそうだが、あの子は敵側の陣営だ。頼るわけにはいかない。根倉さんと尾瀬さんはそもそも何かをお願いできる関係性ではないので……現状では、手詰まりだな。


 と、色々と解決策を考えながら学校に登校して……しかし目途は立たないまま放課後になった。


 そこで、俺は彼女を見つけてしまった。


「あ」


 なぜ、ここにいるのか。

 帰り道。前に最上さんと行った隠れ家的な喫茶店に行こうと思って、中道に入った。


 そこでふと、周囲をきょろきょろと見渡す小さな女の子がいて、思わず二度見した。


 ランドセルだ。

 ランドセルを背負った少女がいる。


 しかも彼女は、見覚えがあった。


 もちろん、直接ではない。転生前によく眺めていたキャラクターだったのだ。

 漫画でよく登場していあの子が、なぜかそこにいる。


「……どうも」


 そして彼女も、俺の視線に気付いた。

 少し警戒するように小さく頭を下げて、それから……懐から何かを取り出して、そっと握りしめるのを見た。


 それは、防犯ブザーだった。

 いや、ちょっと待って。


「鳴らさないでくれると嬉しいんだが」


「それはあなた次第ですが」


 俺を胡乱な目で見つめる彼女の正体は――真田さや。


 真田才賀の妹だった。


 た、たしかに、アドバイスがもらえるような若い子を探してはいた。

 だけど、この子は流石に若すぎる――。


お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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