第八話 モブヒロインはメカクレ属性で着衣巨乳
パツパツだ。
お腹付近はサイズに余裕があるのに、胸元だけぴっちりしている。
三。
漢字で書くと、こうだ。
彼女の胸元に刻まれた服のしわは、その大きさの象徴でもある。
(でかい。でかすぎる……!)
そういえば、最上さんが半袖姿でいるところを初めて見た。
別に、おかしな恰好ではない。というか、学校指定の体操着を着ているので、見慣れてすらいる。
だというのに、目を奪われた。
それくらい、彼女の意外性に驚いている。
転生前、漫画で読んでいた時ですら彼女はずっとジャージを着用していた。
スタイルのシルエット的に、スレンダーなモデル体型ではないことは予想していたが……まさか、ここまで巨乳だったなんて。
「ふぅ。実はずっと暑くて……やっぱり、これからは半袖がいいのかなぁ」
そう言って、最上さんは顔をパタパタと手で扇いだ。
まだ早朝だが、やはり運動すると暑い。頬も上気していて、いつもより顔が赤く見える。
うん。そうだな。
半袖でいた方が、熱中症の対策にもなっていいと思う。
と、言いたかったのに……なぜか俺は、何も言えなくなっていた。
「…………」
「え、えっと、佐藤君? あれ?」
無言の俺に最上さんも気付いたらしい。
困惑したような表情で俺を見て、それから……何かが思い浮かんだのか、急に慌てた様子で俺に背を向けた。
「あっ。ご、ごめんね。みっともない体を見せちゃって……す、すぐに隠すからっ」
どうやら、そういう勘違いをしたらしい。
俺が嫌がっていると思ったのか。
相変わらず自己評価が低い。最上さんは、自分の体は他人に見せられるものではないと思っているのだろう。
そんなことは、絶対にありえないのに。
「いや、違うんだ。最上さん、聞いてくれ!」
「い、いいよ。気を遣わなくていいからっ。この体がだらしないことは、わたしが一番分かってるよ」
「そういう意味じゃない! その、言いにくいんだが……一部分が、大きくてな」
「お、おなかがでしょ? 分かっているから、これ以上は言わないで。ダイエット、がんばるから」
「違う――胸だよ!!」
もうダメだ。
穏便にすませたかったが、最上さんは話を聞いてくれそうにない。
このままだと、二度と半袖にはならないかもしれない。
それは個人的に望ましくなかったので、もうハッキリと言うことにした。
「思ったよりも巨乳でびっくりしてた。ごめん」
スケベだと思われるかもしれない。
でも……まぁ、それはいいや。
ここで一番避けたい選択肢は、最上さんが俺に『拒絶された』と思うこと。
太っているから引いている……と、的外れの勘違いをされたくない。
それなら、いっそのこと素直に白状したほうがいい。
「……へ? きょ、きょにゅー?」
「うん。巨乳」
「――っ!?!?!?!?」
俺の指摘に、最上さんは顔どころか体全部を真っ赤にしていた。
頭の上からは蒸気が噴き出ているようにすら見える。もちろん錯覚なのだが、漫画的な演出でこの世界に合っているかもしれない……というのは、さておき。
もうここまで言ったのだ。
遠慮せずに、思ったことは全部伝えておくとしよう。
「最上さん。よく聞いてくれ……古来から、男子の間ではこう言われている。大きければ大きいほど良い、と」
「ここここれは、太っているだけでっ」
「そこが太っていることの何が悪い? 良いことなんだから、むしろ胸を張るんんだ!!」
「ひゃ、ひゃいっ」
俺の剣幕がすさまじかったからかもしれない。
最上さんは気が弱いので、言われた通りに胸を張っていた。もちろん、着衣越しにお胸も主張していた。
「で、でかい……最上さん、そんな武器を隠していたのか?」
「隠してたわけじゃないよ? むしろ、コンプレックスで」
「コンプレックス!? それもまた、最上さんの魅力なのに」
「魅力……!」
俺に否定されていたわけじゃない。
そのことについては、ちゃんと納得したのだろう。
最上さんは、先ほどよりも顔色が明るい。
まだ赤みがかっているが、暗い表情ではないことに安心した。
「じゃあ、これからは長袖を着るのは禁止で」
「え」
「せっかくの巨乳が隠れてもったいないからな」
「……えー!?」
とりあえず、この武器は強い。
というか、強すぎる……だって、彼女には巨乳のイメージが薄い。
それなのに、いきなり薄着で現れたら男子はみんな驚くだろう。
きっと、真田も……巨乳の最上さんを見たら、無視はできないはずだ。
……やっぱり、素材は素晴らしい。
最上さんは、ほんのちょっとのきっかけで美少女に覚醒する。
そう、確信できた瞬間だった――。
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