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第八十一話 童貞とハンバーグが大好きな湾内さん

「うわっ」


 昼休み。成り行きで夏休みが明けてから最上さんが手作り弁当を持ってきてくれる上に、一緒に食べることが日常になっていたので、彼女の教室に迎えに行こうとしていたのだが。


 しかし、最上さんの所属するA組はすでに授業が終わっていたらしく、逆に最上さんが迎えに来てくれていた。

 それは嬉しい。彼女は存在するだけで空間の空気を癒す清涼剤。あるいは空気清浄機のような存在なので、そこにいてくれるだけで健やかな気分になれる。視界に入れただけで「あ、今日も幸せだな」とか「こんなに素敵な子がこの世に生まれてくれてありがとう」と無意識に感謝の心が芽生えるくらい、宗教的な価値を持ってもおかしくないほどにかわいい存在だ。


 しかし、その隣にいる小娘を見たせいで、幸福度が一気に下落した。不人気の総理大臣が選挙に負けたのに続投表明した時のマーケットくらいの下げ幅である。


(メスガキがいる……)


 教室の入口から、小さく手を振る最上さんの隣。

 そこに、金髪ツインテールのクソガキが横柄な態度で俺に来いと手招きしていた。


(かかわりたくないなぁ)


 最上さんだけなら良かったのに。

 小娘ことメスガキと呼ばれるクソガキちゃんというイメージが強い女子生徒――湾内さんを見て、俺は少しテンションが下がった。


 せっかく最上さんのおかげで幸福度が上がったが、湾内さんのせいでプラスマイナスゼロだ。「あ、今日もナマイキそうだな」とか「なんでそんなに小さいくせに態度がでかいんだ」とか無意識に思ってしまうような、一部のニッチ層にしか刺さらない属性にため息をついた。


 まぁ、とはいっても最上さんを無視することは絶対にありえないので。

 その隣についているアンハッピーセットのおまけは気にしないように努めて、俺は二人のもとに向かった。


「うわぁ。佐藤が来てて草w」


「現実で草を生やすな」


 そっちが呼んだんだろ。

 あと、草に単芝を付けない方がいいぞ。古のネット民に叩かれる。


「く、くさ……?」


 最近は若い世代で一般化されつつあるネットスラングを口にする湾内さんと、それすらもよく分からずにキョトンとしている最上さん。相変わらず世間に疎くてかわいい。


「気にしないでくれ。それで、なんでこの小娘がいるんだ?」


「は? なんでそんなに嫌そうなわけ? 喜んでよ、あたしみたいな美少女に手招きされて嬉しいでしょ?」


「すまない。俺は最上さんみたいなタイプが好きなんだ。湾内さんはタイプじゃなくて」


「にひひっ。あたし、こういう強がっている大人ぶった童貞を分からせるの好き~」


「ど、どどど童貞!?」


「最上さん、落ち着こう。小娘のセクハラは無視した方がいい」


 あと、お前も生娘だろというツッコミはさておき。

 童貞というワードに変な反応を示した最上さんをなだめながらも、そろそろ本題に入ってほしいのでふざけるのはやめることにした。


「最上さん、昼食はどこで食べるんだ? 湾内さんも今日は一緒ってことか」


「あ、うん。前に、みーちゃんにお手製のハンバーグを食べさせてあげるって約束してて……今日は作ってきたの」


「風子、ありがとう♪ あたし、ハンバーグも好きなのよね~。童貞と同じくらい好き」


 童貞とハンバーグを一緒にしないでほしい。

 まぁ、最上さんはこう見えて下ネタにも寛容なので、不快な気持ちにはなっていなさそうなのが救いだ。


「童貞……さ、佐藤君は、童貞さんですか?」


「最上さん、冷静になれ。それは日常会話でする質問ではない」


「安心しなさい、風子。こいつは童貞よ。そういう匂いしかしないわ。童貞臭い」


「黙れクソガキ」


 こう言っておきながら、湾内さんが男性との交際経験がないことを俺は知っている。

 普段は強気でナマイキそうだが、絶対にこの子は分からせられるタイプである。ギャン泣きしてごめんなさいと言わせるのも容易いだろうが……まぁ、大人の俺がここは一歩引いておいた。


「そうなんだ。みーちゃんは勘が鋭いから、たぶんそうなんだよね……えへへ。そっか、佐藤君は童貞さんかぁ」


 なぜか嬉しそうな最上さんはさておき。

 少し、引っかかるな。


(みーちゃん、ね)


 湾内さんを愛称で呼ぶほどに仲良くなった、ということだろう。

 二人は同じクラスなので、一緒にいる時間も多い。加えて、湾内さんは積極的なタイプなので、消極的ながらも相手を受け入れやすい性質の最上さんとも相性は良く見えた。


 対する湾内さんも、最上さんには懐いているように見える。

 俺にはナマイキな態度が露骨なのだが、最上さんに対しては親しい友人のように接している。


 そのことに、俺は危機感を隠せなかった。


(着実に、仲良くなっている――と)


 二人の絆が深ければ深いほど、裏切れなくなる。

 たとえば、湾内さんが真田と付き合いたくて仕方ないと最上さんに訴えれば、彼女は協力せざるを得なくなる。


 そのせいで、真田と嫌でも対峙することになるわけだ。

 恐らく、湾内さんはそうなることを画策して、最上さんと意図的に仲良くなろうとしているようにも見えた。


 相変わらず、小賢しい小娘である――。

お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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