第七十五話 スケベ男子にも寛容な最上さん
さて、ひょんなことから氷室さんとの契約に至ったわけだが。
正直なところ、彼女が何をすればいいのかはまだ思いついていなかった。
「うーん」
最上さんの時は分かりやすかったなぁ。
彼女はいわゆる、素材は良いのにそれを活かせていなかっただけというタイプ。
なので、日本料理の考え方と同じで良かった。素材の味を活かすために、あえて余計な手間はかけない。シンプルに、かつ簡素に、それでいて味を引き立てるようなやり方を考えればいいだけの話だった。
しかし、氷室日向という少女は違う。
彼女は今の時点で既に完成されている。ここから更に魅力を引き出すには、ある程度の加工が強いられる。
高級ステーキと同じ……いや、違うか? 彼女はどんな料理にたとえればいいのだろう。転生前、コンビニ飯とラーメンばかりだったので、料理でたとえたのが間違いだった。自分の中にレパートリーがなさすぎる件について。
「……んー」
「ねぇ、佐藤君? 何か悩んでるの?」
と、頭の中で色々考えていたせいだろう。
隣で一緒にお弁当を食べていた最上さんが、心配そうに声をかけてくれた。
俺のことを気遣ってくれているらしい。優しくていい子だ。
「俺も多感な年頃でな」
「そ、そっか。思春期だもんね」
「ああ。思春期だから、思いつめることもある」
「ちなみに、どんなことを妄想してたの?」
「え」
妄想なんてしてないが。
……あ、そうか。『多感な年頃』と『思春期』というワードから察するに、最上さんは俺がスケベなことで悩んでいると勘違いしているみたいだ。
「佐藤君も、男の子だもんね。そういう気分の時もあるよね……!」
「いや、たぶん違う。最上さんが想像していることではないぞ」
「大丈夫! わたしはそういう部分も気にしないよ。ほら、男の子を王子様みたいに思っている夢見がちな女の子もたくさんいるけど、実際はそうじゃないんだよね。本で読んだことある。『思春期の男子高校生は発情期の犬にも負けない』って!」
「どんな本を読んでるんだ」
酷い言いぐさである。世の中の男子高校生に謝ってほしいものだ。
まぁ、俺が高校生の頃はたしかに、そんな感じだったかもしれないが。当時は若かったなぁ……今も若いか。
「ごめんね。恥ずかしいことを聞いちゃって。大丈夫だよ、無理に言わなくていいからね」
「理解を示さないでくれ」
俺が本当にそんなことを考えているみたいになっていた。
まぁ、別にいいか。最上さんは清楚な見た目に反して、意外とそういうネタにも寛容である。大らかな子なので、俺が本当にスケベだろうと受け入れてくれるだろう。だったら、別に勘違いされてもいいや。
そんなことよりも、やっぱり……気になるな。
「目立ってるな」
つい、言葉が漏れた。
現在、俺は最上さんと一緒に中庭でブルーシートを広げて弁当を食べている。今日は曇りで涼しかったので、ここで食べようと最上さんに誘われたのだ。
ちなみに、中庭は昼食スポットとなっている。周囲には似たような生徒もたくさんいる。
それに応じて、視線もたくさん集まっていて、居心地が良いとは決して言えなかった。
原因はもちろん、最上さんである。
彼女の覚醒した容姿は、性別に問わず視線を集めてしまうのだ。
「う、うん。そうだね……見られてるね」
「最上さんは、もう他人の視線には慣れたか?」
「ちょっとだけ。前みたいにドキドキはしなくなったけど……佐藤君が隣にいなかったら、すぐ逃げ出しちゃうかな」
「たいへんだな」
「でも、見られないよりはマシだよ。気付いて、意識してもらえるのは、今でもちょっとだけ嬉しくて」
それは良かった。
変化を肯定的に受け入れ始めている。前までの卑屈な彼女にはなかった認知思考だった。
見られているのは、自分が悪いからだとかつては考えていただろう。
しかし今は、見られているのは自分が良いからだと思ってくれるようになっていた。
少しずつ、最上さんのネガティブ思考も改善されつつある。
それを喜んでいたのだが……うーん。なんでこうやって俺と最上さんがいい感じになったら、あいつが現れるのだろうか。
「よ、よう。奇遇だな」
声をかけられて、ため息がこぼれそうになった。
せっかく二人でごはんを食べていたのに。
「昼食中に悪いな。突然、声をかけて」
そう言いながら、歩み寄ってきたのは爽やかな男子高校生。
そいつの名前は、真田才賀である――。
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