第六十三話 ヘタレモブヒロイン
週明け。先日のデートでは湾内さんにしてやられた。
メインヒロインという生物の歪みや執着に驚かされたのだが。
しかし、ふと思いついた。
翌日、登校中のことだ。
湾内さんは、最上さんを真田の恋人にしようとしている。
その解決策の一手として、一番分かりやすくて正しい手段があることに気付いた。
(――俺が恋人になればいいのでは?)
そうすれば、話は早い。
というか、誰もが思いついていたような当然の帰結だと思う。
実は転生しているから、とか。
元々は二十八歳の成人男性で、相手は女子高生だから恋愛対象に入りにくい、とか。
この打ち切りになる予定の漫画の世界で最上さんと恋仲になったら、真田のラブコメに変化が生まれずに、そのまま打ち切りになるかもしれない、とか。
そんな言い訳ばかり並べてないで、彼女を守るために覚悟を決めたらいいだけの話だと思った。
(よし、告白するか)
正直なところ、まだ最上さんのことは大好きなキャラクターだという認識が抜けない。
精神的な年齢の乖離もあるので、そのことでやはり抵抗感もある。
ただ、好きであることは間違いないのだ。
どうせこの世界で時を過ごすうちに、転生前の感覚は薄くなっていく。
それなら、遅いか早いかの違いでしかない。最上さんが周囲から狙われているこの状況において、ゆっくりと関係性を深めていこう、なんて悠長なことは言ってられない。
さっさと恋人になれば全部解決。
真田も、他人の恋人を奪おうとするほど女性に困っているわけではない。
湾内さんに対しても、堂々と抵抗できる。
(他のメインヒロインの動きも読めない……やはり、先手を打つべきだ)
実は、一番の懸念がここだ。
湾内さんを見て、他のメインヒロインの動きも気になってしまった。
あの小娘一人が相手ならまだいい。だが、メインヒロイン同士が湾内さんと徒党を組んで最上さんを祭り上げようとしたら、あるいは俺一人では手に負えなくなる可能性もある。
そのためにも、最上さんに近づく魔の手を払う大義名分がほしい。
と、いうわけで。
「――悪いな。急に屋上に呼び出して」
「ど、どどどどどうしたの!?」
お昼休み。告白と言えばここだ、ということで最上さんを屋上に呼び出した。
我ながら実行が早い。そして最上さんは何かを察しているのか、異常に挙動不審だった。
「そんなに緊張しなくていい。別に変なことは……いや、言うかもしれないな」
「変なこと!? まさか、えっと、信じられないけど……っ」
顔は真っ赤である。
モジモジして、唇をもにょもにょと動かして、胸がぷるぷる揺れていた。今日もいい巨乳だ。
さて、ドキドキする最上さんはかわいいので、いつまでも鑑賞していたくなるのだが。
お昼休みは時間が限られている。あと、お腹も空いていた。
告白をさっさと終わらせて、最上さんが作ってくれた弁当も食べたいので。
「――好きだ」
早速告白した。
よし。これでこのラブコメは完結。
真田の傲慢な片思いも、湾内さんの策略も、俺の告白によって全て防がれましたとさ。
めでたし、めでたし――
「す、すきやき!?」
――まぁ、こんな雑な終わり方で許してくれるわけないか。
全てを解決する一手を打ったつもりだった。
色々な言い訳を並べて、物語を引き延ばすような筋道を塞いだつもりだったのだが。
「いや。好きと言ったんだが」
「ふき!? ふ、ふきのおひたしは、美味しいよねっ」
「まぁ、美味いが。しかし、俺が言ったのは『好き』という言葉で」
「虫? む、むむむ虫はちょっと食べるのは、抵抗があって……!」
「意外と美味いぞ。地方に行った時に郷土料理で虫料理を食べたが、悪くはなかった」
「そうなの!?」
……おい。最上さん。
なぜ君は、全て食べ物の話にすり替えようとしているんだ。
ちゃんと聞こえているはずだ。
まるで、鈍感主人公みたいな聞き間違いを連発していて、俺は首を傾げてしまった。
「最上さん?」
「……い、いいいいきなりすぎて、頭がっ」
最上さんの頭から煙が出ていた。
漫画的な表現だ。思考回路がショートしたのかもしれない。
あれ?
この子、もしかして……ヘタレている?
告白はうまくいく、はずだった。
しかし、なんか変な流れになりかけていた――。
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