第六十話 覚醒モブヒロイン>>>>>メインヒロイン
真田にしか興味がないと思っていた。
俺のような無個性の人間に、興味を持っているとは夢にも思っていなかったのに。
「悟って、あたしのことを軽く扱ってるでしょ? あたしに無関心で、興味がなくて、一切の好意がない。そういう人が好きなのよ……風子みたいに褒めてくれる人も悪くないけど、軽く扱われたときが一番ゾクゾクする」
「変態だな。俺を巻き込むな」
「ちょっ、やめてよ……あたしをこれ以上、悦ばせないでくれない?」
「…………」
そんなつもりはなかった。
これでは、何を言ってもこいつを悦ばせるだけだと思うので、ぐっと言葉を飲みこんだ。
「にひひっ。あたし、意外と悟とは仲良くなれる気がするのよね~。ほら、二人ともなんか負けてるでしょ? あんたは大好きな風子を才賀に寝取られるし、あたしは大好きな才賀の愛人にしかなれない哀れな女の子じゃない。敗北者同士、お互いに傷をなめなめしてもいいんじゃない?」
「願い下げだ。一人で舐めてろ」
「むふっ。たまんないなぁ」
「いちいち反応するな。だいたい、君がその言葉に従ったとすれば、それは浮気になるんじゃないか? 大好きな真田が嫌がることをするのはどうかと思うが」
「は? あっちも浮気してるのに、こっちが浮気したらダメって理屈は通らなくない? 別にいいじゃん、あたしは都合良く扱われるだけの愛人なんだもん」
「……歪んでいる」
倫理観がおかしい。
俺には到底理解できない恋愛観だ。
「俺なら――負けないように努力するけどな」
こっちも、無抵抗のままではない。
あえて、冷水を浴びせるように。
湾内さんの言動に対して、まっすぐに正論をぶつけた。
「最愛の人が、別の人と愛し合っている状況を俺は受け入れない。もし、別のライバルがいるなら、正々堂々と競い合う」
「……ありえないわ。風子を見て、まだ勝負を挑む女の子がいるなら、そいつはただのバカよ」
ただ、湾内さんはさらに温度の低い冷笑を返してきた。
俺の言葉を鼻で笑っている。その表情は、どこか呆れているようにも見えた。
「あんなにかわいくて、性格が良くて、スケベな体で、男性受けの権化みたいな女の子と競い合えるわけないでしょw 負けるのが分かっていて勝負に挑むわけないじゃない」
……もしかしたら俺は、やりすぎたのかもしれない。
たしかに、最上さんがこんなにもかわいくなるとは思っていなかった。
モブヒロインから覚醒して、メインヒロインに化けたと思っていたが。
そのレベルですら、ないのかもしれない。
「ちなみに、あたしだけじゃないからね? 風子を見て、負けを認めたのは……」
他のメインヒロインたちが、戦意を失うほどに。
最上さんが、バケモノじみた魅力を手に入れてしまったとするなら。
次に、メインヒロインたちがとる行動はどうなる?
「だからあたしは、二番目を目指すのよ……他の女たちには負けないわ」
真田を潔く諦める。
そんな選択肢は、彼女たちの設定上存在しない。
メインヒロインは、主人公を愛することを義務としてこの世界を生きている。
だから、一番のヒロインが決まった次は、二番目になろうと足掻くのか。
「そんな、真田にとって都合良く扱われるだけの人生でいいのか?」
「うん。だって、才賀の幸せはあたしの幸せなのよ? そのために、風子は才賀を好きにならないといけないわ。それが一番、才賀が幸せになれる選択だもん。そのおこぼれをもらえるだけで、あたしはとっても幸せ。ほら、みーんな幸せよ? なんであんたは、それを理解してくれないの?」
「――理解できるわけ、ないだろ」
まるで、みんなで手を繋いでゴールすることが一番の幸せであるかのような理論だ。
そんなものはただのまやかし。幻想にすぎない。
その幸せは、彼女の犠牲の上に成り立つものだ。
最上風子に我慢を強いるその幸せを、俺はまったく許容できない――。
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