第五十四話 ペット同伴デート
最上さんの手は今、俺と繋がれている――というのは虚偽報告だ。
残念ながら現在、彼女の柔らかい手は湾内さんと繋がれている。小さなおてては、先程からギュッと握られていてまったく離れない。
懐いているな。
……まぁ、悪いことではないか。
最上さんは友達がいないので、この機会に湾内さんと仲良くなれたら、それはそれで良いことだろう。
同性で気軽に接することができる相手がいて損はない。むしろ、異性である俺には言えないこともたくさんあると思うので、ここは見守ることにした。
少し、湾内さんの態度に気になるところはあるが……まぁ、気のせいと信じよう。
そんなこんなで、電車で移動するために駅に入ったのだが。
「風子、ちょっと遠いけど隣県の映画館に行きたいわっ。ほら、大きいショッピングモールがあるでしょ? あそこ、美味しいスイーツのお店もあるのよね~」
「でも、佐藤君がちゃんと予定を立ててくれていて……」
小娘め。駅の中で急に予定を変更するな。
まったく……仕方ないな。
「隣県のあそこね。そういえば映画館もあったか……ちょっと待て、今調べる――よし、大丈夫だ。行くぞ」
「え? 佐藤君、もう調べたの???」
「ああ。ルートも目星をつけたから、ついてこい。行くぞ」
「……な、なんか頼もしいわね」
最上さんも湾内さんも俺の調べる速度にちょっと引いていた。
これは転生前に営業職をやっていた名残だ。知らない土地で、知らない場所に行くことなんて日常茶飯事だったので、スマホには移動と地図関連のアプリは全て入っている。
映画の上映時間も調べるとすぐに情報が手に入るので、別に大したことではなかった。
「あんたって道案内が得意なの?」
「苦手ではない。慣れているからな」
「慣れているって、あんたってよく出かけてんの? そういう顔には見えないけど」
「顔は関係ないだろ……あ、これだ。乗るぞ」
時間もピッタリだ。目的地に到着する電車に乗ると、湾内さんと最上さんも続いて乗ってきた。
席は……休日だからか、少し混んでいるな。ただ、二人分は空いていたので、湾内さんと最上さんに譲ってあげた。
「ふーん。席を譲る優しさはあるのね。及第点よ」
「佐藤君、ありがとう……でも、疲れたら言ってね? わたしと交代して休んでいいから」
偉そうな湾内さんに対して、最上さんは本当に天使だ。
この優しさだけで疲れが吹き飛ぶ気がする。
「大丈夫だ。立ちっぱなしには慣れているからな……一度、新幹線の自由席で座る席がなくて、四時間立ちっぱなしになったことがある。あれに比べたら平気だ」
「さ、佐藤君って、どこに行ってたの……?」
……まぁ、転生前の話はいいんだ。
最近、油断しているのかうっかり転生前の情報を口走ることが多いかもしれない。気を付けよう。
そうやって、軽く雑談を交わしながら移動すること一時間弱。
途中で運良く最上さんの隣席が空いたので、俺も座って目的地に到着した。
「久しぶりだわっ。にひひ~。風子、早く!」
「わっ。ま、待って……!」
電車を出てすぐ、湾内さんが最上さんの手を引いて歩きだす。
まるで、元気な犬を散歩している飼い主みたいに、最上さんは引っ張られていた。
(今日は、彼女に振り回されそうだな)
できれば、二人きりのデートが良かったが。
しかし、湾内さん同伴でもまぁ……楽しいことは間違いないだろう。
何せ彼女は明るい。
ちょっとナマイキなところもあるが、最上さんに対しては基本的に好意的なので、そこを俺は評価している。
俺に対してはかなり舐め腐った態度をとっているが、そこは別に構わない。俺は湾内さんと仲良くなる気も、打ち解ける気もないので、どんな態度を取られようと気にならないのだ。
(とりあえず、最上さんが楽しめるようにサポートしないとな)
映画の時間や、遊ぶ場所までのルートや、食事するお店など、そういった案内は俺に任せてほしい。
(……湾内さんの目的がすっかり変わっている気もするなぁ)
やはり、彼女には不可思議な点も多く、そこだけはどうしても意識してしまうが。
最初は、俺を見定めるためにデートしてほしいと言っていた。二人で遊ぶ俺と最上さんを後ろからストーキングして観察すると言っていたが、いつの間にか一緒に行動することになっていた。
ただ単純に、遊びたくなっただけならそれで構わない。
しかし、何か別の意図がある気もして、そこだけがどうしても引っかかっていた――。
【あとがき】
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