第五十二話 巨乳ヒロインの乳袋は最高である
駅前に十四時集合だったので、余裕をもって俺は二十分前に到着するように家を出た。
ただ、途中で湾内さんに付きまとわれたせいで移動が遅かったのだろう。遅刻こそしなかったが、待ち合わせの時間まであと十分ほどになっていた。
そして最上さんはもう、俺よりも先に到着していたようで。
「佐藤君、湾内さん、こんにちは。今日はいつもより仲が良さそうだね」
と、口ぶりこそ爽やかだが。
しかし表情は、思いっきりむくれていた。
ほっぺたは膨らんでいて、目はジトっとしていて、俺に何か言いたそうな表情をしている。
そんな顔つきだけでも、十分にかわいい。
だが、今日は『かわいい』という一言では言い表せないほどに、俺は彼女に見とれていた。
「最上さん」
「ん? 何か言いたいことがあるなら、聞くよ?」
「――綺麗だ」
「ふにゃ!?」
不意打ちだったのかもしれない。
もちみたいに膨らんでいたほっぺたが急速にしぼんで、彼女は突如として顔を真っ赤にした。
俺に褒められて慌てているらしい。
さっきまでは拗ねていたように見えたが、一転して照れ始めた。
「い、いいいいいきなりだねっ。わたしは、その、えっと……あ! 湾内さんと一緒なことが、気になっていて……」
「そんなことはどうでもいい。最上さん、今日はめちゃくちゃ美人だな。うん、さすがだ。これはすごい」
別に、彼女の機嫌を取るための発言ではない。
そんな小賢しいことを考える余裕は、今の俺にはない。
ただただ、見とれていた。
おめかしをした最上さんに、目を奪われていたのである。
(前よりも、ファッションが――攻めてるな)
夏休みに出かけた際は、もっと大人しい洋服を着ていた。
テレビに出ている女性アナウンサーみたいな、清楚さと上品さを感じられるようなワンピース姿で、あれはあれで良かった。
でも、今日は少し雰囲気が違う。
(これは『乳袋』じゃないか!?)
まず、目につくのはやはり胸元だ。
でかい。しかも今日はその暴力的なまでに美しい曲線がよく見える。前回はゆったりしたサイズのワンピースで隠していたが、今日は体に密着するキャミソールを着ていたので、乳袋が生まれていた。
その上からは申し訳程度に薄手のブラウスを羽織っているが、素材が透けているので黒のインナーがよく見える。
しかも足元はミニスカートで、ふとももをしっかりと見せてくれていたので――もうなんというか、最高だった。
「ちょ、ちょっと派手かもしれないけど……」
本人も、普段より露出が多いことを自覚しているらしい。
俺にジロジロとみられて少し恥ずかしそうにしていた。だが、両手は後ろに回されているあたり、見てほしいと言う気持ちもあるのかもしれない。
不安もあるが、勇気を出してこのファッションを選んだとすれば。
俺も、その気持ちに応えてよいのだろう。
「最高すぎる。この最上さんに会えただけで、今日は満足だな」
「そ、そそそそれは言い過ぎだよ……えへへ」
褒められたことが、やっぱり嬉しいのだろう。
拗ねていた感情もどこへやら。もうすっかり、彼女は湾内さんのことを忘れていた。
ついでに俺も忘れている。
今、手に彼女がぶら下がっていることなんて一切気にせず、最上さんに夢中だった。
……それが気に食わなかったのだろう。
「おい。あたしを無視して二人の世界に入らないでくれる?」
不機嫌そうな声と同時に、俺の脇腹がギュッとつねられて、ようやく彼女の存在を思い出した。
「あ、そうだ。湾内さん、いいかげんに離れろ。俺は最上さんの鑑賞で忙しいんだ」
「……あたしの時は褒めなかったくせに! あんた、やればできるじゃんっ。なんであたしのことは褒めなかったの!?」
「湾内さんに興味がないからな。ちなみに俺は最上さんに興味しかない」
「きょ、興味しかない……うへへ」
「ちょっとあんた! 風子をたぶらかすのが上手じゃない。風子も、そんなだらしない顔しないでくれない!?」
たぶらかしているつもりなんてない。
ただの本音である。俺は最上さんに対して嘘なんてつかないぞ。
「……嫉妬なんてしたわたしがバカだったなぁ。そうだよね、佐藤君ってそういう人だもんね」
あと、別に意図したことではなかったが、今のやり取りで最上さんはすっかり機嫌を直してくれたらしい。
その通りだよ。最上さん……俺は君にしか興味がない。
だから、嫉妬とか、やきもちとか、そういう感情は不要だ。
むくれた顔はかわいいが、俺が君以外の女の子を意識するわけないのだから――
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m




