第五十一話 プロのメスガキ
学生らしいデートとは何だ。
しばらく悩んで俺が導き出した結論は――映画だった。
子供のお小遣いでも無理しなくてすむ上に、映画中は話さなくて良い。見終わってからも映画の話題で盛り上がればいい。なるほど、古来から定番になっているわけだ。
「デートに映画ってつまんなくない?」
ただ、隣を歩くメスガキ……じゃなかった。湾内さんはため息をついていた。
いちいち俺に反抗的な気がする。まぁ、元気な子供は好きなので、構わないが。
「じゃあ、君はどこがいいと思う?」
「家」
「初めてのデートで家はどうなんだろうな」
「そう? 家でイチャイチャしたくない? ふへへ、あたしだったら才賀を連れ込んで、ベッドに押し倒して……キャッ♪」
「マセてるな」
あと、出会ってからすぐに気づいたのだが、湾内さんの頭の中はかなりピンク色だ。
何せ『真田の子供がほしい』と当たり前のように言い放っていたからな。初めて聞いたときは耳を疑ったが、本気でそう思っているみたいである。
「あんたも男でしょ? 風子の胸とか揉みたくないわけ?」
「回答を差し控える」
「は? 素直に言ったら? このむっつりスケベ~」
「それは否定しない。俺はむっつりスケベだ」
「うわっ。あたしにもそういう目を向けてる感じ? いやん、見ないで。孕んじゃう~」
うるせぇなこのクソガキ――おっと、言葉遣いが乱れた。
俺をイラっとさせるとは、なかなかのメスガキスキルだ。相手の神経を逆撫でする術に長けている。その技術は称賛に値するだろう。
「変なこと言ってないで、さっさと歩け」
ふと気づいたら、湾内さんのペースに合わせて歩みが遅くなっていた。
待ち合わせ時間まで余裕はあるが、長々と彼女と会話していたら調子が崩れそうだったので、早く歩くように促す。
そんな俺を、湾内さんはやはり不機嫌そうに見ていた。
「……怒んないわけ? ふーん」
「怒らせたいのか?」
「うん。あんたって感情が見えないのよ。何を考えているか分かんないから、本性を引きずり出したくて」
「残念だったな。君程度では、俺の本気を出すに値しないのかもしれない」
「うわっ。今の発言、ちょーださい。ねぇ、恥ずかしくないの? もう高校生なのにそんな中二病みたいなこと言って大丈夫なの~?」
「……今のは確かに恥ずかしいな」
転生前はアラサーだったのに。
肉体年齢は高校生なので、もしかしたら魂もそこに引きずられているのかもしれない。
まぁ、若返るのはいいことか。
「うーん。煽るのも、茶化すのも、バカにするのダメ……ねぇ、あんたって何をされたら怒るの?」
「俺が怒る理由か。それは――」
大好きなあの子が、軽く扱われた時かな。
それを言いかけて、ぐっと言葉を飲み込んだ。
そういえば、人生で唯一だった。
転生前も俺はこんな性格で、怒ることは滅多になかったのだが……一度だけ、怒りと虚無感に支配されたことがある。
それは、この世界――『もうラブコメなんてこりごりだ(泣)』の最終回が掲載された時。
しかもそれと同時に打ち切りが発表されて、しかもモブ子ちゃんも登場すらしなくて……何もかもを奪われた時が、一番悔しかったし、やるせない怒りを覚えた。
もう、あの時以上に感情が出ることはないかもしれない。
「え? なになに? その反応だと、何かある感じ?? 教えなさいよ! ねぇねぇ、教えてよ~」
俺の反応に違和感があったのだろう。
湾内さんはこの件についてしつこく追及してきた。俺の手を引っ張って……いや、しがみつくように抱き着いてきている。まるで母親にお菓子をおねだりする幼児みたいな態度だった。
まずいな。
もう待ち合わせの場所には到着している。
「こらっ。くっつくな……こんなところを最上さんに見られたら――」
「わたしに見られたら、なに?」
……ほら!
声をかけられて振り向くと、そこには天使がいた。
最上風子さんである。
いつも以上におめかしをした彼女は、じゃれあう俺と湾内さんを見て、ちょっとだけほっぺたを膨らませていた――。
【あとがき】
お読みくださりありがとうございます!
もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!
これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m




