第四十九話 負けヒロイン<主人公<元モブヒロイン<俺(脇役)
「風子って佐藤のことが好きなん?」
ど真ん中のストレート。
歯に衣着せず、オブラートに包むことなく、ド直球を放り投げてくる湾内さん。
こら。その部分をつつくな。
デリケートな部分なんだから、もっと優しく触れてくれ。
「す、好きというか、憧れというか、わたしなんかでは到底及ばない神様というか」
「……神にまで昇格したか」
そして俺は何を言えばいいんだ。
憧憬を通り越して祈祷の対象になっていることに驚きを禁じ得ない。
脇役でしかないのに、最上さんの中では神格者になっていた。思い込みの力は恐ろしい。
「嘘でしょ……めっちゃ好きじゃん。え、こんな雑草みたいな男を? しかも片思い? パワーバランスおかしくない???」
湾内さんは混乱している。
パワーバランスか……たしかに、図示化したら変だな。
『湾内さん(負けヒロイン)<真田(主人公)<最上さん(元モブヒロイン)<俺(脇役)』
こんな感じか?
うん、おかしいな。俺がこのラブコメで頂点に君臨していた。
「……やっぱり無理。あんたの顔、明日には忘れてそう」
湾内さんは俺の顔を凝視して、何か特徴を見つけようとしている。
たぶん、最上さんが俺を好きになった理由を探っているのだろう。しかし分からなかったみたいで、諦めたように首を横に振っていた。
「この感じの男が好きで、才賀に興味がないってどういうこと? あたしには分かんない」
「好みは人それぞれだよ。わたしは真田君を好きになる理由は分かるけど、自分はそうじゃないってだけ」
「……じゃあ、証明してよ」
湾内さんは、心の底から最上さんの気持ちが信じられないのだろう。
疑うように俺と最上さんを交互に見ていた。それくらい俺の顔は地味らしい。まぁ、俺は別にどう思われてもいいのだが……最上さんは、そうじゃないようで。
「そんなに、佐藤君のことが信じられないの?」
「うん。だって、普通の男でしょ。才賀とは比べ物にならないし」
「――じゃあ、証明するね。佐藤君がどんなに素敵な人なのか、見せてあげる」
おや?
なんか話の流れが変になっている気がした。
この食事会は、負け犬ヒロインの登場程度のイベントではなかったのか。
あるいは、真田のラブコメへの介入フラグかと思っていたが……その方向性に動いていない。
むしろ、真逆。
「週末でいいから、デートに行ってよ。あたし、ストーカーして見てるから」
――湾内さんの言葉は、俺たちのラブコメのトリガーになっていた。
これで本当にいいのか?
俺としてはやや納得がいかないものの、もうデートの流れは決まっているようだ。
俺を無視して、二人は勝手にやり取りを始めていた。
普段は奥手な最上さんだが、俺に関連することになると人が変わったみたいに積極的になる。
自分のために動くことはできないが、他人のために動くことができる、そういう利他的な性格なのだ。
「分かった。湾内さん、連絡先教えて? 出かける先が決まったら連絡するね」
「うん、お願い」
「佐藤君のことで何か気になることがあったら、直接聞いてね? 絶対に、彼にストーカーとかしないでね? わたしは別にいいけど……できれば、普通に聞いてきてほしいなぁ」
「い、いいの? そう。ふーん……にひひ」
あ、そういえば。
湾内さんって、最上さんに負けず劣らず友達がいない子だった気がする。
この子は思ったことをそのまま口にするし、わがままで、ナマイキ盛りの小娘なせいか、すぐ調子に乗って余計なことも言う。だから同性の友達が少なかった。
こんな彼女でも仲良くしてくれる、という名目があったからこそ彼女は真田に夢中になっていると思う。
ただ、最上さんとは意外と相性がいいのかもしれない。普通にオシャベリしている上に、連絡先まで交換できて、湾内さんはどこか嬉しそうだった。
(デートか……少しプレッシャーだが、まぁいいか)
このイベントは、俺と最上さんの関係性を深めるため、というのもあるだろう。
一方で、湾内さんと最上さんの友情も、繋ぐことができるかもしれない。
それなら、少し違和感こそあるのだが……受け入れよう。
最上さんが友達を作るために、俺もがんばるとしようか――。
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