第四十六話 容姿も性格も負けヒロインでは遠く及ばない
ファミレスの店員さんが、ハンバーグ定食の容器を片付けてくれた。
チラッと伝票を見ると、財布に入っている金額と同額の数字が見えて、すぐにそっと伏せた。
最上さんのパンケーキは全然いい。この子がスイーツを食べている時は本当にかわいいので、その鑑賞代と思えば安いくらいだ。
しかし、生意気な小娘の湾内さんに奢るのは、やや納得がいかなかった。
でも、今は違う。この子にも奢ってあげようと思えている。
わがままではある。しかし彼女は、決して性格が悪いわけじゃない。
むしろ、逆だ。ちょっとおバカなところはあるが……誰よりも純粋で、他人の幸せを応援できる優しさを持っている。
「十回」
「……何の話だ?」
「風子が落とし物を届けた数よ。この三日で十回、落とし物を届けていたでしょ?」
「最上さん、本当なのか?」
「う、うん。ほら、生徒会室の前に落とし物入れがあるでしょ? あそこに届けているだけだから、別に大変なことじゃなくて」
「あたしは0回。落とし物なんて見て見ぬふりするけど」
「そんな堂々と言わなくても……」
ちなみに俺は一回。筆箱が落ちていたので届けたのだが、それはさておき。
湾内さんみたいにみて見ぬふりこそしないが、見つけたら届けようかな、程度の意思しかないのも事実。
やはり、最上さんが異常とも言える。
「毎朝、花瓶の水も変えてるでしょ?」
「……花が好きで」
「図書館の本も綺麗に並べ直してるし」
「整列してる方が気持ち良いだけで」
「毎朝、散歩しながらゴミ拾いもしてる」
「そ、そこまで見てるの!?」
「ストーカーしてたって言ってるでしょ」
淡々と、湾内さんが最上さんのいいところを羅列している。
俺ですら知らない情報が盛沢山だった。最上さんって、やっぱりいい子だなぁ。
俺なら、どうしてもこういった行動を『ボランティア』だと思ってしまう。
だが、彼女は恐らく違う。無意識に、なんとなく、ただの善意でそういうことをやってしまえるのが、最上風子という少女なのだ。
誰にも見られないことが当たり前で、誰かに評価されることなんて最初から度外視しているからこそ、彼女は無償の善意を持っている。
それに、湾内さんは敗北感を覚えたのかもしれない。
「他の女が相手なら、負けないって自信もあった。だけど、あんたは無理……あたしは風子以上の存在になれない。あ、こういう子が『本物』なんだって、すぐに分かった」
元々、劣勢ではあった。
しかしそれでも、他のヒロインに振り落とされないよう食い下がっていた。
しかし、突如として現れた最上風子に、心を折られてしまった。
湾内さんの敗北宣言は、そういうことなのだろうか。
「綺麗な黒髪ね。羨ましいわ……あたしは血筋的に黒髪じゃないのよ。これも地毛で」
金髪のツインテールをみょんみょんと動かして、ため息をつく湾内さん。
いや、それも魅力的な属性だと思うが。
「わたしは、湾内さんの金髪にすごく憧れるけどなぁ」
「――うぅ。褒めてくれてありがとう。嬉しい……っ」
うーむ。湾内さんからまったく敵意を感じない。
むしろ、最上さんに対してすごく好意的だった。
今も褒められて本当に嬉しいのだろう。アホ毛がぴょこぴょこと動いていた。
「あとそれから、その巨乳。すごいわ、人間国宝じゃない」
「ああ。そうだ、彼女は人類の宝物だ」
「ふ、二人とも、言いすぎだよっ」
残念ながら、事実である。
いや、残念ではないか。最上さんの存在は幸福でしかないのだから。
「清楚な雰囲気の癖に、ドスケベなスタイル……しかも、性格もすごく良い。あたしにないものを全部持ってる。風子には絶対に勝てない」
見た目も、性格も、すべての要素を湾内さんは評価していた。
そのせいで、彼女は勝負の舞台から自ら降りた。
そしてその代わりに、最上さんを押し上げようとしているみたいだ――。
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