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第四十四話 報われないコメディヒロイン

 お金がないのによくもハンバーグセットなんて注文できたな。

 脂っこいものが嫌いなくせに、ハンバーグは大丈夫っておかしくないか?


 と、色々な疑問こそあるが、もう過ぎたことなので考えても仕方ない。

 今、目の前では湾内美鈴がものすごい勢いでハンバーグを喰らっていた。


「ん~。おいひぃっ」


「ねぇ、佐藤君。湾内さんって、小柄だけどよく食べるんだね」


「小柄じゃないし! こう見えて、身長は150センチあるから!!」


「ひぃっ。ご、ごめんなさい……佐藤君、ごめんなさいって伝えて?」


 そして、最上さんの人見知りは相変わらず継続している。

 湾内さんとも目を合わせず、さっきからずっと俺にばっかり向かって話しかけている。


 これでは本当に最上さんの通訳者だった。

 こんな弱そうな湾内さんですら、最上さんは怖がっている。


 ……もしかしたら、湾内さんはそれが楽しいのかもしれない。

 普段は見くびられてばかりいるからだろう。怯えられて、満更でもなさそうだった。


「風子もたくさん食べないとダメじゃない?」


 気が大きくなっているのか、なんか偉そうにしている。

 ハンバーグを食べ終えてお腹がいっぱいでもあるのだろう。充実したような表情を浮かべていた。


「あたしみたいに大きくならないわよ?」


 いや、最上さんは十分に大きいだろ。

 もちろん、身長の話ではない。背の高さは数センチくらいしか差がないと思うが……一部に関しては、圧倒的な差があった。


「大きく……って、でっか。ねぇ、逆に聞いていい? 何を食べたらそんなに大きくなるの? 教えてよ。おい、なんでそんなにでかいの? 風子、あたしも大きくしてよっ」


「で、ででででかくないですっ」


「うぅ……あたしもあんたくらい大きかったらなぁ」


 そうだな。湾内さんはどちらかというとロリ体型。一部の層にこそ刺さるものの、万人受けは難しい属性だ。バリエーションの一つとしては優秀でも、メインを張るにはやや弱い。


 どうしても、他の巨乳ヒロインの陰に隠れているのは否めない。

 だからこそ、ポンコツだったり、負け犬だったり、メンタルが弱かったり、という要素が付属されているのだろう。そうすることでキャラクターを粒立てているわけだ。


 まぁ、こういうコメディ色が強いキャラは、本格的なラブコメの場面においては邪魔になるので、彼女が報われることはないと思うが。


「……はぁ。才賀が風子を気にしている理由、分かるかも」


 食事を終えたことで、湾内さんは気持ちが落ち着いたのだろう。

 出会った時みたいに情緒を乱さず、今度は冷静にちゃんと話をしてくれるみたいだ。


 どうして彼女が、俺たちに話しかけたのか。

 ……なぜ、俺たちをストーカーしてまで、追いかけてきたのか。


 先ほどは混乱していてまともに会話できなかったが、今なら色々と聞いてもいいだろう。

 この子には不可思議な点がたくさんあるのだ。


「湾内さんは、最上さんに何か伝えたいことがあったんだよな?」


「うん。才賀のことを、幸せにしてあげてほしくて」


 先ほども同じようなことを言っていた。

 だが、その発言の背景を俺たちは知らない。そのせいで、意図を理解してあげられない。


 このあたりについて、詳しく掘り下げる必要がありそうだ。


「……なぜ、そう思ったんだ?」


「だって、才賀が風子のことばっかり話してたから」


「つまり、真田が最上さんを好きだと思った。だから湾内さんは、最上さんにあいつを幸せにしてほしいとお願いしにきた――と、いうことでいいか?」


「そうだけど」


「……一つ、確認させてほしい。君は、真田のことが好きだよな? じゃあ、湾内さんが幸せにしてあげようとは思わないのか?」


「それができるなら、そうしたいに決まってるでしょ」


 ……今のは少し、意地悪だったか。

 湾内さんはため息をつきながらも、しっかりと頷いた。


 まぁ、そうだよな。

 彼女は報われない恋をしている。そのことを薄々察している。


 それでも、大好きな人のためを思って、こうやって行動している。

 健気だった。そうやって主人に尽くすところもワンちゃんみたいで、彼女は意外とファンの間で人気があったんだよなぁ。


 しかしながら、彼女の事情は最上さんにとって、あまり関係がないことである。

 たしかに湾内さんは可哀想である。でも、同情したからといって、無責任に救いの手を差し伸べるような真似はしない。その方が逆に、彼女を不幸にすることだってある。


 野良犬に餌を上げるのと一緒だ。

 餌付けされた野生の動物は、自らの手で食料を手に入れる術を失う。

 人間から食べ物をもらわなければ生きていけなくなる。無責任な優しさが、誰かを傷つけることだってある。


 かつて、最上さんがそうだったように。

 真田の気まぐれで勘違いして、思いつめていたことのあるこの子だからこそ……ちゃんと、湾内さんにこう言ってあげられたのかもしれない。


「ごめんなさい。わたしには、真田君を幸せにすることはできないよ」


 ハッキリと、否定した。

 さっきは目を合わせることもできなかったのに。

 今はちゃんと、湾内さんの目を見て話していた――。

お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m


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