第四十三話 ポンコツキャラ登場!
ラーメンが食べたい気分だったのに。
『あたし、脂っこいもの苦手』
傷心中でありながらも意外とわがままな湾内さんがそう主張してきたので、俺たちは仕方なくファミレスに行くことにした。
まぁ、こういうお店も嫌いじゃない。
意外とおつまみが豊富で、お酒もあって、大人でも結構楽しめる。
「とりあえず生で」
「お客様。未成年は注文できませんよ」
「……あはは。冗談です」
無意識にビールを頼んでいて、ちょっと焦った。
店員さんも笑ってスルーしてくれたが、普通に警察案件である。制服でアルコールを注文とはまた、度胸がすごすぎる。愛想笑いで誤魔化しつつ、ドリンクバーを注文した。
「佐藤君……わたし、パンケーキで」
隣に座っている人見知りの最上さんは、店員さんと目が合わせられないのだろう。俺に注文メニューを耳打ちしてきた。なんか翻訳者になった気分だ。
「あと、パンケーキを一つ」
「はい。こちらはドリンクバーとのセットがお得ですよ」
「最上さん、どうする?」
「……セットで」
「分かった。セットにしてください」
「かしこまりました。セットですね」
……なんか、余計なやり取りが多いな。
こうやって最上さんを甘やかしていいのだろうか。もっと厳しくした方が、彼女のためか?
しかし、耳打ちしてくる最上さんもかわいいので、まぁこのままでいいだろう。俺は佐藤君。砂糖のように甘い男。特に最上さんは褒めて伸ばそうと思っているので、別に人見知りでもいいや。
「ねぇ。あたし、これ」
「……どれ?」
「だから、これっ」
「ハンバーグセットか。ガッツリ食べるんだな」
「こ、これって言ってるでしょ?」
「ん? ああ、分かっているぞ」
「あ、あたしの分も注文してよっ」
えー。
湾内さんに甘えられても困るのだが。
「自分で注文しろ。そうやって他人に頼ってばかりいるから、湾内さんはメンタルが弱いんだぞ。人見知りを言い訳にせず、ちゃんと他人と向き合う意思が必要なんだ」
「さ、佐藤君っ。その言葉はわたしにも刺さるよ……」
「はぁ!? な、なななんか酷い!」
「ふふっ……ハンバーグセットが一つですね。ご注文は以上ですか?」
店員さんが優しい人で良かった。
俺たちのやり取りを笑って流してくれて、メニューを取り終えるとすぐに厨房の方に向かっていった。
さて、注文が終わったところで。
とりあえず話がしたいのだが……ここはファミレス。ドリンクはセルフで取りに行く必要がある。
「最上さん、飲み物は何がいい? 取りに行ってくるよ」
「いいの? ありがとう。じゃあ、レモンティーで」
「おい、佐藤。あたしはオレンジジュース」
「湾内さん。人に甘えてばかりだと、自分が成長できないぞ」
「だ、だから、佐藤君? わたしにも刺さるから……」
「うぅっ。成長って言うな……才賀にも同じこと言われたことある。『お前はわがままだから、いつまで経っても子供なんだ』って」
そう言いながら、湾内さんは席を立ちあがってトボトボと歩き出した。
まぁ、俺の手は二つしかないので、コップも二つしか持てない。湾内さんにはセルフで取ってもらって、俺は最上さんの分も入れてから席に戻った。
「どうぞ、最上さん」
「ありがとう」
コップを渡して、席に座る。
そんな俺たちを、対面の席で湾内さんがジッと見つめていた。
「……いいなぁ」
その目は、羨ましそうというか……ちょっと嫉妬しているように、薄暗い感情が渦巻いている。
それも無理はない。だってこういう関係性は、彼女が恋焦がれるものだから。
「あたしもいつか、才賀とそうやって――ぐへへ」
そして、妄想しているのかニヤニヤした表情を浮かべる湾内さん。
み、見ていられなかった。
(わんちゃん……君が真田と添い遂げる可能性は、限りなく低いぞ)
彼女はいわゆる、ポンコツキャラ。
見た目こそ愛らしいが、ただそれだけのにぎやかし役。
真田の寵愛を受けているものの、それは情愛ではなく、どちらかというと妹や幼い子供を相手にするような親愛に近い。つまり、真田からは異性としてまったく認識されていない。
それでも一途に片思いを続けるその姿に、俺はちょっとだけ泣きそうになった。
報われない恋をしている彼女に、幸あれ。
「ねぇ、ここって奢り?」
「もちろん違うが」
「え。あたし、お金ないけど? どうする?」
「……はぁ」
訂正。
このわがまま娘に、幸なんてなくていいや――。
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