第三十二話 脇役の台頭に主人公が焦りだした
ああ、やっぱりこうなるんだ。
なんとなく、予感していた。きっとすぐにでも、彼と対面することになるのだろうな――と。
「おい、ちょっといいか?」
弁当を食べ終えた後のこと。
昼休みはあと五分ほどで終わる。最上さんと俺は違うクラスなので、別れて自分の教室に向かっていた。
その最中に、呼び止められたのだ。
その相手はもちろん――真田才賀だった。
「……ん? なんだ?」
一瞬、どう応じようか迷った。
不遜にいくべきか。あるいは謙虚にいるべきか。真田との関係性をどちらに定めるかによって、態度を変えることは可能だ。
しかしながら、俺はどちらも選ばなかった。
真田は味方でも敵でもない、という判断にしたのだ。
まだ、この展開の全容が見えない。
こんな不透明な状況でヘイトを買うわけにはいかないし、逆に友好的でいられても困る。
だからこそ、中庸でいいのかもしれない。
「お前、名前は?」
「佐藤だよ。よろしくな、真田」
「俺の名前は知っているんだな」
「有名人だから、当たり前だろ」
あれだけ美少女を侍らせておいて、無名なわけないだろ。
男子生徒なら、俺じゃなくてもお前の名前は知っている。男子高校生の嫉妬心を舐めるな。まぁ、俺は最上さんにしか興味ないので、みんなとは少し違うが。
「で、何か用事か?」
昼休みも残り数分。
できれば、解放してほしいものだが。
しかし、彼は何か聞きたいことがあるようだ。
「……最上と付き合っているのか?」
なんて率直な質問なんだ。
たしかに時間はないが、もう少しオブラートにしてほしい話題である。
会社とかで後輩の女性社員に聞いたら、セクハラ認定される問いかけだった。
まぁ、俺はあらゆるハラスメントを乗り越えた屈強の営業戦士(故)。この程度では動じない。
「付き合ってはないな」
「じゃあ、どういう関係だ?」
「……どういう関係なのか、俺も知りたい」
「は? ふざけているのか?」
いやいや。もうちょっと態度を柔らかくしてくれよ。
敵意がにじみ出ていて、あまり良い心象を与えないぞ。ビジネスの場では本心を曝け出すと不利になるのだ。
たとえ相手が嫌いでも、好きそうなそぶりを見せる。
それが人間関係を円滑にする手段だ。
「強いて言うなら、師弟だな。あるいはファンとアイドル。もしくは観客と演者かもしれない」
「……意味が分からねぇよ」
俺だって分からないからな。
曖昧な表現になることは許してくれ。
「とにかく、最上とは近しい関係なんだよな?」
「まぁ、否定はできない」
「――そうか。なるほどな」
なるほどって、何を納得したんだろう。
というか、真田よ……お前、夏休み前はまったく最上さんのことを気にしていなかったのに。
見た目が変わった瞬間、態度が一転したな。
「夏休み前はもう少し地味な印象だったが……あんなにかわいいなんて知らなかった」
「そうか」
「ああ。だから、ちょっと気になってるんだよ」
「……それを俺に言う意味があるのか?」
何の宣言だよ。
気になっているのはいいことだ。アプローチでも仕掛ければいい。
だが、俺に仕掛けてどうするんだ。
「気になっている、というのはあれだぞ。恋愛的な意味じゃなくて、人間的にという意味だからな」
「それは別にいいんだが」
そんな言い訳はどうでもいい。
とにかく、そろそろ本当に授業に遅れるので、会話は打ち切りにするか。
「これから授業なんだ。真田も教室に戻った方がいいぞ」
「ああ。分かっている。またな」
また会うつもりなんだなぁ。
俺としては別に、会う必要性を感じないが。
しかし……これでハッキリしたな。
(真田が俺のことを敵視しているということは――あいつ、焦ってないか?)
まるで、新たなライバルが登場したかのような。
そんな態度で接された気がしてならない。
今のやり取りも、何か探りを入れられている感じがした。
様子見なのか、偵察なのか、小手調べなのか。まぁ、全部同じような意味か。
こんな脇役を意識するなんて、時間の無駄だと思うが。
(……いや、俺はそもそも脇役なのか? もう傍観者ではないだろこれは)
自分の立場すら、認識に自信がなくなってくる。
恐らく今のは、宣戦布告だ。
主人公が俺の存在を認めて、舞台上に引き上げた。
さて、困った。俺はこれから、どんな立ち回りをすればいいのだろうか。
この先の展開は、この漫画の作者にしか分からない――。
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