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第三十一話 新章突入……?

 夏休み前。

 最上さんは勇気を振り絞って、真田に感謝の言葉を伝えようと話しかけた。


 しかし、あの時は真田にスルーされた。

 呼びかけても足を止めず、応じる価値すらないと言わんばかりに一言『悪い!』とだけ行って、そのまま帰宅したのである。


 あれから一ヵ月と少しが経過して。

 モブ子ちゃんは努力して、モブヒロインではなくなった。


 最上風子の素質が見事に花開き、美少女へと化けた。


 ここまでは完璧な流れだ。

 そして次は、彼女がリベンジを果たすのが綺麗なシナリオだろう。


 夏休み後に、真田と再会を果たした。

 以前は話しかけても対応されなかったが、今度は真田の方から話しかけてくる――素晴らしい展開だ。


 最上さんの変化や、真田との関係性の変化を一気に演出できる、分かりやすいシーン。

 しかし……最上さんは、真田をスルーした。


 ある意味では、リベンジは果たしているのだが。

 その翻訳は『再挑戦』ではなく『仕返し』だった。


 目には目を、歯には歯を。スルーされたのなら、スルーを。

 まぁ、スカッとしなかったと言えば噓になる。俺の可愛いモブ子ちゃんを袖に振るなんて有り得ないと不満はあった。


 だが、これは俺の私心にすぎない。

 今後のことを考えるなら、やはりあの場面はやり返すよりも、再挑戦の方が良かったと思うのだが。


「最上さん。大丈夫なのか?」


 校舎を出て、中庭に移動。

 そこでも、どうしても先ほどの件が腑に落ちない俺は、設置されているベンチに座った最上さんに再度確認した。


「うんっ。お弁当の味は、大丈夫だと思う」


「いや、そこじゃなくて」


 この子はとことん、真田のことを重要視していない。

 俺が気にしていることすら察していないらしい。キョトンとしていた。


「真田のことだよ。せめて、返事くらいすればよかったのに」


「あー……正直ね、頭が真っ白になっちゃってて」


 なに?

 それならまだ、可能性はあるな。


 そうか。憧れの真田に話しかけられたことで緊張しすぎたのか。

 そのせいで頭が真っ白になって、つい応じることができなかった――というわけだな。


「み、みんながわたしのことを見てたから……」


 え。そっち? 真田じゃないの?

 真田に話しかけられたことよりも、視線を集めていたことがダメだったのか!?


「お礼の言葉を伝えなくて良かったのか?」


「……あ! 忘れてた!!」


 最上さんはハッとしたように目を大きくしていた。

 空色の瞳が丸くなっていてかわいい……って、違くて。今は彼女に魅了されている場合じゃない。


(悪気すらなかったなら、仕返しですらないなこれは)


 何かがズレていた。

 真田と最上さんの歯車がまったくかみ合っていない。


 今の状況を見ると……立場が逆転しているようにも見える。


 夏休み前は、真田が最上さんに価値を感じていなかったように。

 夏休み後は、最上さんが真田に価値を感じていなかった。


 ……ど、どうなっているんだろう。

 まったく状況が理解できない。


「まぁ、どうせ同じクラスだからお礼は今度言えると思う。そんなことより、お弁当食べないの? その……ちょ、ちょっとだけ、自信作で」


 あと、もう一つ。

 分からないことがある。


 それは――俺が物語の舞台からいつまで経っても退場しないことだ。

 先ほどが舞台から降りる花道だと思っていた。脇役として役目を終えたことで、達成感もあった。


 だが、最上さんの意識が俺から離れない。

 今も、少し緊張した面持ちで弁当を差し出している。真田のために作ったのかと勘違いしていたが、どうやら俺のためだったみたいだ。


 彼女のことだ。

 きっと、時間をかけて丁寧に作ったはず。


 俺のために、わざわざ。

 そう考えると、反射的にその弁当を受け取ってすぐに食べ始めていた。


「ありがとう。いただきます――おお。このハンバーグ、美味しいな」


「美味しい? えへへ~。冷凍じゃなくて、ちゃんと手作りなんだよ?」


「マジか。なかなかの料理スキルだ……将来は良いお嫁さんになりそうだな」


「――お、お嫁さんかぁ。それはとっても、素敵だねっ」


 あ、待って。今のなし。

 無意識に賛美の言葉を送ったが、最上さんの様子を見てハッとした。


 今、彼女は嬉しそうに笑っている。

 同時に、満更でもなさそうに、照れている。


 真田ではなく、俺に対して――最上風子は、好意を示している。

 俺は鈍感じゃない。真田みたいな主人公体質はない。


 だが、今までは最上さんが真田のことを好きなのだと思い込んでいたから、勘違いしていた。


(くっ。読みたい……今こそ、この漫画がどうなっているか、読みたすぎる!!)


 流れが大きく変わっていた。

 この作品はもう、俺が読み終わったものとは同じではないのかもしれない。


 ここから、新章が始まりそうだった――。

お読みくださりありがとうございます!

ここから、新章が始まります。

それに際して、サブタイトルの構文を変えました。

もうモブヒロインではなくなったモブ子ちゃんと佐藤君のラブコメを、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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