第二十三話 モブヒロインがスカートを短くしただけなのに
今までのやり取りを経て、どうやら最上さんが大きな勘違いをしていることに気付いた。
「もしかしてだが……男性はみんな、細くてスタイル抜群な女性だけを好きだと思ってないか?」
「え? ち、違うの?」
やはりそう考えていたのか。
だから彼女は、自分の肉体に自信を持てなかったのかもしれない。
たしかに最上さんはスレンダーではない。
痩せている、とも言えないかもしれない。だが、決して太っているわけでもない。
もともと、肉付きが良いタイプでもあるのだろう。
そのことを最上さんはコンプレックスに感じていたようだ。
その考え違いを、訂正しておこう。
「細くなくてもいい。むしろ、色々と主張しているスタイルの方が好き。そういう男性だってたくさんいる。細いことに絶対的な価値はないと断言しておこう。もちろん、悪いことではないがな」
「……佐藤君も、そうなの?」
「俺か? 俺なんて特にそうだ。最上さんのスタイルは、ハッキリ言うとドストライクだな。顔も大好きだし、それ以上に性格がたまらない。こうして一緒にいるだけでワクワクする。そういう魅力を持っていることを、ちゃんと自覚してくれ」
見た目も、中身も。
君の全てを俺は好ましく思っている。
……こうやって肯定されたことが、彼女にはなかったのかもしれない。
「――そ、そっか。うん。そうなんだよね。佐藤君だけは、わたしのことをそう言ってくれるんだよね……えへへ」
照れている。だが、嬉しそうでもある。
顔を赤くしながらも、彼女は喜びをかみしめるように、スカートの裾をキュッと握っていた。
「もちろん、俺が言ったことは一般論でもある。俺だけが感じていることじゃないからな」
「……そこは別に、いいの。佐藤君が感じていることを、知りたかっただけだから」
どちらかと言うと、俺の意見よりも一般論の方を大切にしてほしいが。
というか、俺の感覚を基準値にすると別に元のモブ子ちゃんのままで全然良かったからな。まぁ、今の状態でも大好きだからいいんだけど。
とにかく、最上さんは自分のスタイルを過剰に気にする必要はない。
そのことを、心からの思いを込めて熱弁したわけだが。
「以上のことを踏まえて、改めて提案させてほしい。スカートの丈、もう少しだけ短くしてみないか?」
「佐藤君は……? 佐藤君は、そのほうがいいの?」
「うん。そのほうがいい。というか、見たい」
力強く頷いた。
自己肯定感の低い彼女は、誰にも求められていないと思い込んでいる。
でも、俺という存在だけは、最上さんに強い期待を抱いている。
その期待があれば、彼女は――開花する。
モブでいることさえもやめて、次の一歩を踏み出してくれる。
利己的ではない、過剰なほどに利他的な性格。
それもまた、最上さんの魅力だ。
「……分かった。ちょっと待っててね」
最上さんは頷いた。
何かを決意したかのような表情で。
いつものような弱々しさや、臆病さは、もうない。
覚悟を決めた表情で、リビングを一旦出て……それからすぐに、戻って来た。
その時にはもう、スカートの丈は短くなっていて。
「どう、かな」
決して、短すぎるわけではない。
他のヒロインたちのように、風が吹けばパンツが見えるような丈ではない。
ただ、以前は見えなかった膝はちゃんと見えている。
更に、その上……ふとももが見えるくらいまでは、ちゃんと短い。
たしかに、細いわけではない。
ただ、このふとももは間違いなく、魅力だ。
柔らかそう、と言えば確実にドン引きされると思うので控えておくが。
あと、最上さんはあれだ。うん。安産体型というやつか……おいおい、嘘だろ。モブヒロインにしては、色々と武器を持ちすぎだ。
卑屈という膜の下に、ここまでの魅力が詰まっていたなんて。
「…………」
そんな最上さんを見て、俺は言葉を失っていた。
ただ、スカートを短くしただけなのに。
たったそれだけの、ことなのに。
「えっと、佐藤君?」
「――っ」
「え? 泣いてる!? な、ななななななんで!?」
自然と、涙があふれていた。
ごめん、最上さん。
今の君を見た瞬間、もう大丈夫だと確信して涙腺が緩んでしまったのだ。
心配だったんだ。
この漫画の打ち切り最終回を見た時、登場すらなく、誰の記憶からも消えてなくなるモブ子ちゃんのことを思うと、胸が痛くて仕方なかった。
俺の大好きなキャラクターが、こんなにも雑な扱いをされたことが耐えきれなかった。
だが、今の姿なら……もう、そんな最終回は訪れない。
そのことを確信できて、ついつい涙があふれてしまったのである。
転生できて、この子とかかわることができて、本当に良かった――
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