第二十一話 モブヒロイン、脱ぐ
以前と比較すると、印象が違う。
メカクレ属性の地味系モブ子ちゃん。それはそれで俺は好きなのだが……しかしながら、今の彼女は全く違う。
垢ぬけた――という表現も、少し違う感じがするから不思議だ。
田舎から都会に上京して華やかになった、とかそういう開花の仕方ではない。
たとえるなら、素材の味そのものを活かしている日本料理。
今の容姿もあくまで、モブ子ちゃんの延長線上なのだ。艶やかな黒髪も、楚々とした空気感も、純粋な表情も、鮮やかな瞳も――すべてが彼女の静謐な空気感を演出している。
私服よりも、制服になるとその雰囲気がより強調された。
最近は、創作でも現実でも華やかな女子高生が人気のあるイメージがある。現実では染髪やカラコン、化粧が当たり前。創作でも北欧や西欧などの血が混じっていることがデフォルトだったり、黒髪の清楚な女子高生は一時期より確実に減った。
オタク君は黒髪好き。そういう時代がかつてはあった。今も人気属性の一つではあるだろうが……かつてのような栄華を誇っているわけじゃない。
その古き良き大和撫子属性の清楚JKこそ、今の最上風子なのだ。
「さっきね、鏡を見てわたしもびっくりしたの。これが、わたしなんだ……って」
「制服を着たのは初めてなのか?」
「うん。というか、鏡も怖くてあんまり見られないの。昔から、自分の姿を見るのが苦手で」
自信がないあまり、かもしれない。
何度も言うが、俺は昔のままでも好きだった。どちらかというと、俺の意思というよりは真田の好みを考慮して髪の毛を切るよう促してみたのだが……その判断は、間違っていなかったと思う。
これからはきっと、最上さんはもっと自分のことを好きになってくれると思う。
そうすれば、気持ちだってさらに前向きになるだろう。それが容易に想像できる状況になって、安心した。
俺がそばにいなくても、彼女はもう大丈夫。
だからこそ、あと少し。
モブヒロインがメインヒロインへと成るための、最後の仕上げといこうか。
「でも、最上さん。俺はどうしても、気になることが二つある」
「二つ……?」
「別に、ダメな部分というわけじゃない。今の君でも十分にかわいい。だからこれから言うところは、俺の好みの問題と思ってもらって構わない。嫌なら、断っても大丈夫だ」
「――ううん。嫌って、絶対に思わないよ」
そう言って、最上さんはゆっくりと首を振った。
全幅の信頼を寄せられていて、なんだか嬉しい。そう思ってもらえるだけで、俺はもうすべてが満たされる。
これなら、笑顔で彼女を送り出せそうだ。
それまでに、やるべきことをやろう。
「一つ目は、上のジャージだ」
「そういえば、夏休み前にもジャージのこと言ってくれていたよね」
「ああ。でも、この夏休みは毎日のように運動してただろ? 君が過剰に気にしているスタイルだって、改善はされているはずだ。その努力があっても、まだ不安なのかなって」
「……太っているから、肌をさらすのは苦手――そう言ったら、巨乳なだけだから謝れって、言われたなぁ」
「ああ。そこがでかいことに何の恐怖がある?」
この夏休み。
ダイエット目的の運動、という名目ではあったが、実は本筋は違う。
彼女の言い訳を否定するために、俺は努力を継続するよう促した。
自己否定しがちの最上さんでも、毎日積み重ねた努力という事実を否定するのは、きっと難しいだろう。
「最上さん――脱げ」
「ちょ、ちょっとその一言だけを聞いたら、誤解されちゃうような」
「いいから、脱ぐんだ。そのたわわに実った一部分を堂々と曝け出せ。いいか? そこに詰まっているのは脂肪じゃない。夢と希望なんだ。男性はもちろん、女性だって憧れる。その武器を、堂々と見せつけるんだ……!」
「熱いっ。佐藤君、いつもクールなのになんでこの話題だけめちゃくちゃ熱血になるの……?」
「いいから、脱ぐんだ最上風子!」
「――ひゃ、ひゃいっ」
相変わらず、押しに弱すぎる。
やや強引に言いつけると、最上さんは慌てた様子でジャージを脱ぎ捨てた。
そして露わになったのは……白いお山。
パツパツである。ボタンの隙間から、ちょっと肌着の色が見えるところもまた良い。
「あの、サイズがちょっと、合ってなくて……新しい制服を買うまで、ジャージを着てても大丈夫とかになったり……」
「却下。サイズはピッタリなだけだから安心しろ」
「うぅっ。お母さんもそう言って、新しい制服を買ってくれなくて……『どうせまだ大きくなるのに、もったいないわよ。ボタンがはじけ飛んでからが替え時よ』って」
おかあさんも巨乳だからだろう。
パツパツの制服は、巨乳が通る道なのかもしれない――。
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