第百九十七話 性欲か。理性か
だいたい二時間くらいだろうか。
なんだかんだ、制限時間いっぱいカラオケを利用していた。
「スッキリした~!」
特に湾内さんが楽しんでいた気がする。
七割くらいは彼女が歌いまくっていた。最初だけ最上さんに歌を強要したが、あれ以降は専ら自分ばかり曲を入れていたのである。
たまに俺や最上さんとデュエットしたり、ということもあったが……まぁ、湾内さんは歌が上手いので、聞いていて普通に面白かった。最近の流行りの曲も知ることができて良かったと思う。
そんなこんなで、帰り道。
「うーん。風子に歌は無理そうね」
湾内さんがそう呟いて、俺の脇腹を小突いてきた。なんだ小娘、喧嘩を売ってるのか?
「いやいや。素晴らしかっただろ」
「そう思っているのはあんただけよ」
「わたしもそう思うなぁ」
最上さんまで湾内さんに同調していた。
たしかに上手ではなかったが、別に否定するほどではないと思うのだが。
「残念……もし歌が上手ければ、ミスコンで歌わせてたのに」
「え!?」
寝耳に水だったのか。
最上さんはびっくりして大きな声を発していた。このリアクションを見る限り、湾内さんの意図は聞いていなかったのだろう。
一方、俺は内心で頷いていた。
(やっぱりミスコンで出す特技を探っていたのか)
予想していたので、驚きはない。
この場で何も知らなかったのは、ミスコンに出場する最上さんだけだったようだ。
ただし、俺はミスコンなど関係なくついてきた、という設定である。一応、驚いたふりをした方がいいだろう。
「な、なんだってー」
「……棒読みすぎるでしょ。あんたはどうせ察してたんじゃないの?」
流石は同じ黒幕属性。俺が察していたことを彼女は察していたらしい。その上で、あえて手の内を見せてくれたようだ。
「まぁ、風子って歌が下手くそだし、最初から期待はしてなかったけどね」
「そうだよっ。わたし、みんなの前で歌えないよ!?」
「あたしと佐藤の前なら歌えるんだから、その気になれば大丈夫よ」
「……美鈴ちゃんと佐藤くんだから、歌えるだけだよ? 知らない人の前では、いくら美鈴ちゃんのお願いでも絶対にダメだからねっ」
とかなんとか言いながら、最上さんは土下座したらきっと頷いてくれるんだろうなぁ。
しかし、湾内さんはもう最上さんに歌わせる気はないので、その機会は訪れないか。
「ほう。歌わせないのか」
ただし、俺は湾内さんとは少し意見が違った。
もちろんそれを伝えては敵に塩を送ることになるので、あえて黙っておこうとしたのだが……湾内さんは、俺の様子を探っていたようで。
「ふーん。あんたなら歌わせてたの?」
いち早く反応されてしまった。
心を読まれては仕方ない。彼女の言う通り、俺が湾内さんの立場にいたらそうしていただろう。
「そうだな。俺なら、最上さんに土下座して歌ってもらっていた」
「え。佐藤くん、ダメだからね!? いくら土下座されても、ダメだよっ」
「そうか。ごめん、無理をさせるつもりはないよ。嫌なら、ちゃんと断ってくれてもいいから」
「……ちょ、ちょっとだけだからね?」
ふっ。チョロいな。ちょっと殊勝な態度を見せたらこれだ。土下座すれば絶対にイケる。
そのことは湾内さんも分かっているのだろう。最上さんの素直さに苦笑していたが、これ以上は触れずに俺との会話を継続した。
「なんで? あんなに下手くそなら、マイナスのプロモーションにしかならなくない?」
「技術なんて関係ない。カラオケ大会ではないからな……歌っている姿が魅力的であれば、それでいい。この一生懸命なところに、男子はグッとくるだろう」
「あっそ。あたしはそう思わないけどね」
恐らく、俺と湾内さんでは見ている方向が違うのだろう。
俺は最上さんに、不完全な魅力を求めている。
しかし湾内さんは、彼女に欠陥なき魅力を求めているのかもしれない。
もっと簡単に言おう。
俺は最上さんに『内面の魅力』を感じている。
一方、湾内さんは『容姿の魅力』を感じているのだ。
「この見た目なのよ? 一生懸命アピールなんかより、もっと見た目で圧倒できるから、もったいなくない? 風子は中身もかわいいけど、外見の方が絶対にレベルが高いでしょ」
「その意見も分かるがな」
「性欲に訴えかけた方が良いと、あたしは思う」
「俺は理性に訴えかける手段を選ぶな」
見解の相違、というものだ。
最上さんはどちらの方向にも十分な魅力を持っている。
だからこそ、プロデュースする者……いや、俺と湾内さんの場合は『黒幕』だな。その意向や手腕が、問われるのかもしれない――。
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