第十九話 モブヒロインの制服姿が見てみたい
――夏休みも残すところ、あと一日。
いよいよその時が迫っている。最上さんもそのことを意識しているのか、かなり緊張した様子だった。
「さ、佐藤君……明日、大丈夫かなぁ。わたし、みんなから変って思わないかなっ」
「大丈夫。変じゃないからな」
「夏休みデビューしたって言われちゃうかなぁ」
「それは言われるが、事実だから大丈夫」
「そ、そこも否定してよっ」
早朝の運動を終えて、最上さんと雑談を交わす。
こうやって心温まる交流をするのも、今日で最後だ。
「不安で夜は眠れなさそう」
「そういう時はゲームをするといいぞ。気が付いた時にはもう朝だ」
「眠る方法は教えてくれないんだね……まぁ、いっか。本でも読んでようかな。ちょうど、新作を買ったし」
彼女は常日頃から、色々とネガティブになりがちだ。
しかし、俺が前向きな言葉を返すと、こうやって良い方向に思考が傾く。
最上さんは純粋だ。だからこそ、一緒にいる人間の影響を大きく受ける。
今まで後ろ向きばかりだったのは、励ます人が隣にいなかったからだろう。
まぁ、これからはその役割を俺ではなく、真田がやることになるのだが。
ともあれ、眠れない夜は今日までとなるだろう。その点では安心だった。
真田よ。俺の大好きなモブ子ちゃんを幸せにしてくれよ。
と、最愛の娘を嫁に送る父親の気持ちになっていたのだが。
「明日から学校だね。制服、ちゃんと準備した?」
その一言で、ハッとした。
(そうだ。最上さんは――制服の着こなしがモブかわいかった!!)
モブかわいい、とは俺の中での褒め言葉だが。
悪く言うと、着こなしが地味すぎる。他のヒロインたちみたいに華やかな感じはない。
夏休み前の最上さんは、紺色のジャージを常に着用していた。
しかも、スカートの丈も膝下とかなり長かった。俺はああいう雰囲気も好きだが、真田はもっと分かりやすく肌色が見えていた方が好きである。
登校する前に、そこを矯正しておきたい。
だから、決めた。
「よし。後で最上さんの家に行くから」
「……え? なんで!?」
「制服姿を急に見たくなった」
「急すぎない……?」
やや強引だっただろうか。
最上さんが戸惑っている。あまり気乗りはしない……というか、恥ずかしいのかもしれない。
しかし、彼女は奥手な女の子。
押してダメなら、もっと押す。引くことなんて考えてはいけない。
「ほら。髪型が変わってから初めての制服姿だろ? めちゃくちゃ可愛くなっていると思うから、見たくて見たくて仕方ないんだよ」
「か、かわいい……」
そして、最上さんはチョロい。
かわいい。その一言で彼女はほっぺたを赤くして、それからもにょもにょと唇を動かしていた。照れている。
「べつに、かわいくはないけど……まぁ、そこまで言うなら、仕方ないね」
ほら。強引に迫ったら、彼女は断らない。
満更でもなさそうな顔で頷いてくれた。
「ありがとう。じゃあ、午後に行くから」
「制服、アイロンかけて待っているね」
「ついでにおかあさんにも手土産でも持って行くかな。あ、おとうさんはいるか? 平日だからさすがに仕事か?」
「お、お父さんにも会う気なの? びっくりしそうだなぁ……でも、残念ながら今日は二人ともいないよ。お父さんはお仕事で、お母さんはお友達と食事に行ってるから」
「そうか。分かった」
できれば、おとうさんの顔も一目見たかった。
まぁ、いないのであればそれは仕方ない。
「わ、わたしと二人きり、だよ」
「ああ。そうだな。二人きりだ」
「うん。二人きり……えへへ」
そして最上さんは、なぜか嬉しそうである。
思春期だなぁ。異性と仲良くしているのは、両親に見られたくないのだろう。
そんなわけで。
午後は、最上さんの家に行くことになった――。
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