第百七十一話 『ちょうどいい』じゃん?
よし。本を買ったところで、書店から出よう。
「最上さん。帰りはどうする? 食事にでも行くか? 時間が微妙だが」
「あー。どうしよう……まだお腹は空いてなくて、食べられるかな」
現在時刻、十六時。
夕食にはさすがに早すぎる。どうしようかと考えながら、二人で書店を出たのだが。
「――おい! あたしを置いていくなっ」
ちっ。気付かれたか。
自然な流れで最上さんを誘導して、湾内さんを置き去りにしようとしたのに。
さすが子犬気質だ。俺たちがいなくなる気配を察知したらしい。
「風子、酷くない!?」
「ご、ごめんね。美鈴ちゃんのこと、忘れてた……!」
「いや。最上さん、謝る必要はない。勝手にいなくなった湾内さんが悪いからな」
「あんたが勝手にいなくなったんでしょ!!」
……湾内さんの視点だと、それもそうか。
一緒にいた俺が急にいなくなって、びっくりしたのかもしれない。ちょっと息が上がっていた。慌てている様子がありありと感じられた。
「……ふぅ。まったく、ペットの管理くらいちゃんとやりなさいよね」
「君をペットにした覚えはないが」
「は? あたしみたいなペットがいてもいいでしょ。こんなにかわいくて都合が良さそうなペット、最高じゃん」
ペットは家族なんだから、都合が良いという表現がそもそもおかしい気がするのだが。
まぁいい。湾内さんは変なので、スルーしておこう。
「あれ? 風子が本を買ったのは分かるけど、佐藤も買ったんだ」
「いや。これは最上さんからもらったんだ」
「うん。日頃のお礼で、プレゼントしたの」
「……あ! そういえば、今日ってそうだったわね。佐藤に媚びる日だった!!」
別に最上さんは媚びているわけじゃないと思う。
純粋な気持ちでプレゼントしてくれただけだと思うが、湾内さんに説明しても聞いてくれるわけがないか。
「ちょっと待ってて! あたしも、買ってくるからっ」
そう言って、湾内さんは再び書店内へと戻っていく。
何を持ってくるのだろうか。最上さんと二人で顔を見合わせてから、待つこと少し。
袋に入れる時間すら惜しかったのだろう。彼女が手に持っていた書籍は――グラビアアイドルの写真集だった。
「これっ。これが一番スケベだった!!」
「…………はぁ」
どう反応したらいいのか。
プレゼントに写真集って何だよ。男子同士だったら分かるのだが、女子からプレゼントされると複雑である。
せめて、袋に入れてほしかった。
この本を脇に抱えて移動していたら、周囲の人間が引きそうである。
「美鈴ちゃん……これが一番だったの?」
「うんっ。風子も見てみなさいよ。すっごいから」
「じゃあ、ちょっとだけ……え。すごい、なにこれ!? こ、ここまで……はわわわっ」
はわわって。
最近はあまり聞かなくなった、萌えアニメヒロインの鳴き声である。うむ、やっぱりこういう露骨にあざといのがいいな。いかにも『オタクってこういう女子が好きなんだろ?w』みたいな萌えキャラが好きなので、最高だった。
「しかも二人組なのよ。佐藤、良かったわね」
「何が良いのか分からないが」
「お得じゃん? 大丈夫、ちゃんと巨乳とスレンダーの組み合わせだから。それぞれ違う味って感じで、最高だったわ」
……嫌がらせとか、イタズラじゃないな。
湾内さんは、本気で俺がこれを喜ぶと思って選んでいる。
その証拠に、ドヤ顔だった。『嬉しいだろぉ?』みたいな顔をしている。
「黒髪の清楚巨乳は風子に似てるし、こっちのロリスレンダーはあたしに似てるじゃん? ちょうどいいかなって」
「何に『ちょうどいい』んだ……」
あと、自分をロリスレンダー体型だと自覚しているのも、少し嫌だった。
自覚があるタイプのメスガキである。ロリキャラは無垢でいてほしい派なので、やはり相容れない。
でも、一応はプレゼントなんだよなぁ。
写真集って、意外と値段が高い。それなのに湾内さんは身銭を切ってくれている。
あまり文句ばかり言って受け取らないのは、逆に申し訳ない気がした。
だから、うん。別に興味があるわけじゃないが、仕方ないよな。これは不可抗力なのだ。
「……せっかくのプレゼントだからな。受け取っておくよ、ありがとう」
「にひひ~。素直になれない童貞かわちぃ」
「童貞って言うな」
「ど、どうて……!」
「最上さんも、反応しなくていいから」
なんだかんだ興味津々な最上さんも顔を真っ赤にしていたが。
とりあえず写真集を受け取っておいた。
……ちなみに、どんな写真集なのだろうか。気になって軽くページをめくって、即座に閉じた。
こ、これは、両親に見られたらヤバイタイプかもしれない。
もちろんR18ではないのだが……これは一応、ベッドの下にでも隠しておくか――。
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