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第百七十話 風子ちゃんは古風ちゃん

 湾内さんはジッとしていられない性格なので、書店内を散歩させることにした。

 しばらく歩けば気分も落ち着くかと思ったのだが……とあるコーナーで彼女は足を止めて、一冊の本を手に取った。


 それは、グラビアアイドルの写真集である。


「うわ。やっば……えろぉ」


 ……まぁ、十八禁じゃないだけマシか。

 アイドルの際どい写真集に湾内さんは夢中だった。


「今時のアイドルってこんなに脱がないとやってられないのね……えっちすぎるでしょ」


 と、独り言をぶつぶつ呟いている湾内さん。

 何やら夢中になっているので、ちょうどいいかもしれない。


(放置するか)


 誤解を恐れずに俺の気持ちをハッキリ言葉にしよう。こいつは邪魔だ。

 せっかく、最上さんと本屋さんでデート気分を味わえているのに。湾内さんがいると、発情期の子犬を散歩させている気分になるのだ。


 そういうわけで、湾内さんが写真集を舐めまわすように立ち読みしている隙に、俺は最上さんのいた恋愛小説コーナーに戻った。


「…………」


 彼女はまだ立ち読みしていた。

 いや。ここまでくると、ガチ読みかもしれない。ページも結構進んでいる気がする。


「最上さん。それ、面白いのか?」


「ひゃうっ!?」


 声をかけると、ビクンと体を震わせた。

 かなり集中していたようだ。


「あ。悪い、邪魔したか?」


「ううん。ちょっとびっくりしただけ……って、気付いたら五十ページも読んでた!?」


 没頭していたせいだろうか。ページが進んでいたことに彼女自身が驚いている。


「も、もちろん買うよ? ここで読み終わるなんてしないからっ」


「そこは心配してないが」


 最上さんの性格は知っている。書店で本を一気読みして買わない、ということはしないだろう。

 まぁ、時間的にも、体力的にもそれは大変だと思うので、物理的に不可能な気もするが。


「そんなに面白かったのか?」


「うん。宇宙人の美少女とスライムの美少女、どっちを選ぶのかっていうラブコメでね」


「……どっちを選べばいいんだろうな」


「迷うよね? わたしも気になって、つい読み進める手が止まらなくなっちゃった」


 文庫本を愛しそうに胸に抱えて、小さく笑う最上さん。

 いい笑顔だった。心から本が好き、という感情があふれ出ている。


「そういえば、美鈴ちゃんは?」


「写真集を見て興奮してるぞ。文字は読めないが、スケベな女の子の写真なら見られるらしい」


「あ、あはは。美鈴ちゃんらしいね」


 それもそうか。最上さんの言う通り、湾内さんのキャラクター的に本は嫌いそうである。文字を読むのが嫌いなのは、湾内さんらしくもあった。


「動画でいいじゃん、と言ってたぞ。読み上げ機能もないのに、本なんて読む意味が分からないらしい」


「へー。わたしは動画ってあんまり見ないからなぁ……読み上げも、自分で読んだ方が早いから合わなくて」


 ……今時の女子高生にしては、やっぱり最上さんは古風だと思う。

 本好きで、現代の流行コンテンツには疎い。


 そもそも見た目が、最上さんは大人しい。

 どちらかというと、湾内さんや氷室さんの方が流行に近い容姿だろう。


 最上さんは黒髪で、前髪も長くしている。服装もあまり派手なものは着用しない。今日もロングスカートとカーディガンという格好だ。文学少女っぽくて俺は好きだが……今時、というかは少し怪しい。


 一方、今日の湾内さんは相変わらず派手だった。ショートパンツにニーハイソックスを着用していて、上着はさすがに長袖だが、胸元はしっかりと開いていて……肌を絶対に露出させるんだ、という意気込みを感じる。


 そういうタイプの方が、今はウケが良いと思う。

 だが、最上さんはその逆を突き進むのだ。


「本、買ってきてもいい?」


「分かった」


「ごめんね。ちょっと待っててね?」


 と、先ほど読んでいた本と、それからもう一冊を手に取った彼女は、急いだ様子でレジへと向かう。

 書店離れが進んでいるせいか、客もそれほどいなかったのでレジも空いていたらしい。すぐに戻ってきた最上さんは、スッと購入した一冊の本を俺に差し出してきた。


「佐藤君。これ、あげる」


「いいのか?」


「うん。日頃、お世話になっているお礼ですっ」


 ささやかな気配りは、気持ちを温かくしてくれる。

 もちろん、感謝して受け取った。


 ちなみに、どんな内容なのか聞いてみると。


「ちょ、ちょっとだけ地味な女の子と、社会人の恋愛小説だよ」


 モジモジしながら紡がれた説明を聞いて……やっぱり、最上さんが一番かわいいことを再確認した。


(本の内容で好意を示すとか、古風というか……うん。やっぱりイイな)


 明らかに、俺と最上さんの関係性に近い恋愛小説だ。

 そういうところが、最上さんの魅力だと思う――。

お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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