第百六十八話 三人で仲良く
まさか、こうくるとは思わなかった。
「風子。聞いて……佐藤をオとせば、ミスコンで圧勝できるわ」
「う、うん。それは間違いないね」
「ヘッドハンティングよ。日向の陣営をぶち壊せるから、とりあえず今日は媚びて媚びて媚びまくるわよっ」
「分かった!」
「いや。全部聞こえてるんだが」
――今日は休日。
最上さんから『一緒に本を買いに行かない?』と誘われたので、喜んで待ち合わせ場所の駅前に来たのに……なぜか小娘がいたのでげんなりしていたら、目の前で密談を交わされた。ひそひそ声だが、距離が近すぎるせいで全部丸聞こえである。
どうりで、最上さんにしては急な呼び出しだったわけだ。
彼女は奥ゆかしいので、何かに誘うときはもっと丁寧である。突然の連絡に多少の荒々しさを感じていたのだが、湾内さんがかかわっていることであれば、納得できた。
(氷室さんに勝つために、俺を狙ってきたか)
さすが湾内さんだ。
まさかの判断である。勝負の根底からぶち壊す禁じ手を初手で打ってきた。
これが果たされたら、勝負は決する。
さやちゃんは氷室さんと二人きりになるのは嫌だろうし、俺がいなければそもそも協力しないと思う。結果、氷室さんは孤立して詰むというわけだ。
「でも、佐藤君がわたしの味方になるんだったら、そもそもミスコンに出る必要はないような……?」
「風子。そのスケベな体は何のためについてるの?」
「どういうこと!?」
「男連中はあんたの水着姿が見たいのよ。そんな下品な体に生まれたのなら、せめて見せてあげるのが筋ってものじゃないの?」
「どんな筋だ」
さすがに言っていることが暴論だったので、思わず口を挟んでしまった。
まったく……相変わらず、湾内さんは無茶苦茶である。
「最上さん。こんな頭がピンク色の小娘は放っておいて、二人で本屋さんに行こう」
「い、行きたいけど、えっと……」
「ぷぷーw 残念でした~。今日はあたしも一緒でーす。どんまーい! ばーか! どうてー!」
……うるせぇなこのクソガキ。
温厚な俺の神経を逆撫でするとは、相変わらずの才能である。人を怒らせるのが特技ってなんだよ。
「ごめんね、佐藤君。美鈴ちゃん、今日は一人で暇みたいで……この週末は、両親が旅行に行ってるんだって。置いて行かれたって拗ねてて、あと寂しいって言うから、我慢してあげて?」
「あ! 風子、言わないでっ」
……補足情報が入ると、拒絶しにくいな。
ムカつくだけならあしらえたのに。子犬みたいな性格だからな……一人だと寂しそうにしょんぼりしている姿が容易に想像できてしまった。
「仕方ない、か。散歩くらいには連れて行ってやろう」
「散歩ってなによ。あたしは別に頼んでないけど?」
「で、どこに行きたい?」
「公園――は後で行くとして! 今日は、佐藤をオとすって言ってるでしょ!? とりあえずホテルからよ」
公園とホテルのギャップに引くんだが。
どういう思考回路をしているんだ。
「ホテル? ホテル……ホテル!?」
「最上さん、落ち着け。気付かなくていい」
純粋なままでいてくれ。ピンク色のホテルになんて行くわけないから、安心してほしい。
「風子、三人で仲良く――」
「湾内さん。黙れ」
平気でR18の壁を越えようとしないでほしい。
とりあえず、今日は三人でどこかに行こうという話みたいだ。
……もちろん、ピンク色の展開は望んでいないので論外。
ただ、俺が黙っているとその方向に進みそうな気がしたので、こちらから健全なルートに誘導する必要があった。
「ここで立ち話するのも時間がもったいない。とりあえず、本屋さんにでも行かないか?」
どこに行くのか決まっていないなら、当初の予定通りの場所へ。
本屋さんなら、変なイベントも起きないだろう。少なくともスケベな展開にはならないと思うので安心だ。
「いいの? わたしは行きたいけど」
「えー。本かぁ……あたし、文字は苦手なんだけど~」
だから君は共感性が足りないんだ。
本を読んで、世界には違う視点の思考があることを学ぶべきだ。
そうすると、思考が養われて、自分で物事について考えることができるようになる。
だから、本は読んだ方がいいぞ――
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