第百六十四話 サンタさんはいます←(*´▽`*)
放課後。最上さんは湾内さんとミスコン対策をしているので、一人で喫茶店に来た。
今日はさやちゃんがいたので、二人でゆっくりしていたのだが……プリンを食べ終えたさやちゃんから、こんなことを言われた。
「お兄さま。とりあえず、さやは氷室日向さんを見ておきたいです」
「え? 会いたいのか?」
「会いたくはありません。さやは人見知りなので、ご近所さんの氷室日向さんでも同じです。ただ、ミスコンに勝つためには、やっぱりちゃんと見ておきたいです」
あ、そういうことか。
ミスコンはまだ一か月以上先なので、対策は急がなくていいと思っていたが……さやちゃんはすぐにでも、という意気込みだった。
「さやは意外と負けず嫌いですよ? やるからには、全力でがんばります」
「……そうだな。俺の方が、ちょっと弱気だったか」
対策を後回しにしていたのは、俺の気持ちが後ろ向きだったせいもあるのかもしれない。
できれば、最上さんと戦いたくなんてない。ただ、そうも言ってられない状況になったのだ……さやちゃんの言う通り、やるからには全力でがんばろう。
ただし、その前に伝えておくべきことがあった。
「さやちゃん。実は俺、氷室さんの前では変装しているんだ」
「なぜでしょうか。お兄さまは、変装しなくても覚えられるタイプではないと思います」
ハッキリと『存在感がない』と言われた気がするが、それは事実なので構わない。
その通り。俺は特徴がないので、認識されることはない。
「普段は外でしか会わないからな。学校で顔を合わせて気まずくならないように、あえて本名は伏せている。サングラスもかけていて……まぁ、見せた方が早いか」
そう言って、ポケットからサングラスを取り出してかけた後、髪の毛もオールバックにした。
ささやかな変装である。ただそんな俺を見て、なぜかさやちゃんは目を輝かせていた。
「わぁっ。ヒカ●ンみたいでいいですねっ」
「お。やっぱりそう見えてるのか? 俺もそのイメージなんだ。ちなみに偽名は『サトキン』だ」
「サトキン!」
さ、さすが子供に大人気のインフルエンサーだ。
氷室さんはまったく反応しなかったが、さやちゃんがすごくいいリアクションを見せてくれた。
目をキラキラと輝かせている。この世代の子供は、誰もがあのインフルエンサーを通ってきたのかもしれない。
「さ、さやも、変装したいですっ。サヤキンになりたいのですが……!」
「二人もいていいものなのか?」
「本家も兄弟でやってますから。さやたちも兄妹でやりましょうっ」
いや、俺は君の実兄じゃないのだが。
しかしさやちゃんは、すっかりその気になっていた。
「サングラスがあれば、変装できるけど」
「あります。さやのお家に、なりきりセットがありますので」
「あるんだ……!」
「子供のころにサンタさんからいただいたものです。おもちゃですが、サングラスもあったはずです」
さ、サンタさん?
信じてるのだろうか。分からない……さやちゃんの年齢だとどちらか分からないので、ここはスルーしておいた。
とりあえず、さやちゃんはサヤキンになるみたいだ。
「じゃあ、明日にでも顔合わせしようか?」
「はいっ」
「場所は……どうしよう」
氷室さんとは、いつも夕方くらいに河川敷で会っていた。
ただ、さやちゃんの門限は17時である。夕方になると門限を過ぎるので、放課後すぐというタイミングがいいのだろう。
あと、せっかくさやちゃんと氷室さんの家は近いのだ。二人にわざわざこの付近に来てもらうより、俺が行った方が効率的な気がした。
「さやちゃんの家の近くがいいな。どの地域か、教えてもらっていいか?」
「はい。住所は――」
と、あっさりさやちゃんの住所を入手できた。
それはつまり、真田の家の場所を知ったということと同義である。
別にあいつの家の情報なんてどうでもいいのだが。
まぁ、家に行くわけではないのだ。近くのファミレスを探して、氷室さんを呼び出そう。
と、いうわけで。
さやちゃんと氷室さんの顔合わせを、行うことになった。
ただ、二人はあまり仲良くないらしい。
……うまくいけばいいのだが――。
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