第百六十二話 いらっしゃいませぴょん♪
ミスコンまであと一ヵ月半だ。
まだまだ先のこと……に見えて、実はそうでもない。当然だが、ミスコンだけではなく学校祭が開催されるので、各クラスで行う出し物の準備も進める必要がある。
それに加えて、実行委員に所属していたら学校祭の運営にも追われるわけで……大変だろうなぁ。俺はもちろん実行委員でもなければ、学級委員長でもないので、作業量は少なくてすみそうだ。
また、俺の所属するD組は学校祭にやる気がないので、出し物も当日だけがんばればいい『たこやき屋さん』に決定した。出店は最高だ。
俺としてはミスコンに集中したいので、やることが単純で簡単な出し物に決まってありがたかった。
……そういえば、最上さんや真田の所属するA組の出し物は何になったのか。
気になったので、一緒に昼食を食べていた最上さんに聞いてみた。
「出し物? わたしたちのクラスは喫茶店をやるんだって」
最上さんとは、ミスコンで敵対することになっている。
ただ、だからと言って仲が悪くなったわけじゃない。普段はいつも通り、仲良く接してくれた。
それとこれとは話が別らしい。是々非々というやつか。
相変わらず、お弁当も作ってくれているので、嫌われてもいないようだ。その点については安心だった。
「喫茶店……か」
学校祭の出し物で、喫茶店。
もちろん、それがただの喫茶店にならないことは容易に予想できた。
「メイド喫茶か? なるほど、悪くない。最上さんのメイドか……きっと似合うだろう。当日は混雑するな」
「ちょ、ちょっと。照れちゃうこと言わないでっ。もう……佐藤君ったら」
弁当に入っているタコさんウインナーくらい顔を赤くする最上さん。
照れている表情が相変わらずかわいい。もっとからかいたくなるところだが。
「でも、メイド喫茶じゃないかもしれなくて」
曖昧な言葉を聞いて、からかうのを中断した。
つまりどういうことなのだろうか。
「バニー喫茶になるかも?」
「――ほう」
なるほど。意見が割れているということだな。
バニーか。ふむふむ、バニー……!
「最上さん」
「なに? どうしたの?」
「今この時ほど、君と同じクラスじゃないことを悔しいと思ったことはない」
「い、今なんだ……」
「ああ。俺は――バニー喫茶が見たかった……っ」
拳を握りしめて、呻くように呟いた。
普段は別に違うクラスでも良いと思っている。どうせ昼食時や放課後に一緒にいられるので、構わない。
ただ、俺もA組の一員なら……バニー喫茶に一票を投じることをできたのにっ。
「あー……佐藤君、バニーさんが大好きだもんね」
最上さんは遠い目をしている。
俺が熱狂的なバニーフェチだということを思い出しているのだろう。
最上さんがバニーガールになった時は最高だった。あの興奮を、もう一度味わいたいものである。
「ちなみに、どっちが優勢だ?」
「佐藤君は残念に思うかもしれないけど、メイド喫茶の方かな。やっぱり、女子たちはバニーが恥ずかしいみたいで」
「くっ。べ、別に露出が多くないものだってあるぞ? かわいらしいタイプもあるから!」
「わたしに言われてもっ。クラスで発言なんてできないよ……?」
最上さんは大人しいので、たしかに難しいか。
無理強いはできない。しかし、やっぱり俺は見たい。
「最上さんがバニーガール姿で、顔を真っ赤にしながら他の男子に『いらっしゃいませぴょん♪』って言ってるところが見たいんだ。どうにかならないか?」
「さ、佐藤君っ!?」
ちなみに、俺が見たいのは最上さんであって、他の女子には一切の興味がない。
最上さんなら、二人きりの時にお願いしたらそれくらいしてくれるだろ、という意見があるのも分かる。
ただ、こういうのはシチュエーションが大事なのだ。俺ではない他人に対して恥ずかしがっているところが見たい、という気持ちを分かってほしい。あれだ。寝取られというやつ――ではないな。例えがおかしくなったので、そろそろ思考の暴走を抑えておこう。
「こほん。すまない、取り乱した」
「佐藤君って、たまに面白くなるよね」
「最上さんとバニーのことになると、つい熱くなってしまうんだ」
「わ、わたしのことなら……いいよ。うん、むしろそれなら、いいけどね?」
「ん? もしかして、俺が他の女子のバニーを見たがっていると思ったのか? 大丈夫だ、安心してくれ。俺は最上さん一筋だからな」
「――ぎくっ!?!?!?」
もしかして、さっきから俺の言葉に乗り気じゃないのは、そういう理由もあったのだろうか。
A組のバニー喫茶が見たいわけではない。最上さんのバニー喫茶が見たいだけなので、そこは勘違いしないよう念入りに言葉を重ねておいた。
そうすると、最上さんは自分で『ぎくっ』と漫画らしいセリフを言って、目をグルグルにした。
分かりやすい女の子である――。
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