表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/181

第百五十九話 わたしは、あなたの育てた最高傑作だから

 そろそろ、最上さんの家も近い。

 時刻もすっかり遅くなって、二十時に近かった。最上さんのご両親を心配させないためにも、早く帰宅した方がいいだろう。


 しかし、最上さんのペースが未だに遅い。

 家に近づくにつれて、歩幅が小さくなっている。


 これが意味することは、つまり。


(まだ、気がかりがある……ということだろうな)


 一応、俺の意図や目的は把握してくれた。

 その上で思うところがあるのだろう。それがなかなか切り出せていないように見えた。


 ……我慢させてしまうと、後々に大きな禍根となることがある。

 愚痴や不満を伝えずに我慢すると、自分の中で膨れ上がってやがて爆発する。これを反芻思考というらしい。


 最上さんとは、これからも良好な関係のままでいたい。

 なので、単刀直入に……俺の方から、問いかけた。


「最上さん。俺に、何か言いたいことはないか?」


「言いたいことって……」


「なんでもいいぞ。俺は怒ることもないし、君を嫌いになることもない。むしろ、氷室さんとの件は俺が暴走した面もある。今後のためにも、今のうちに最上さんの不満はちゃんと聞いておきたい」


 言い方に気を付けた。

 彼女の意思決定を『俺のため』にしてあげることが大事だ。

 最上さんは自分のために行動することをためらうタイプなので、行動の動機を『佐藤悟』にすることで、言いやすくなるだろう。


 その予想通り、最上さんはすぐに返答してくれた。

 今までの、奥歯にものが挟まっていたかのような態度はなくなって、ハッキリと伝えてくれたのである。


「不満とか、そういう感情はないよ。ただ、えっと……少し、悔しかっただけ」


「悔しいとは?」


「――氷室さんに、ミスコンで優勝してほしいんだよね?」


「それは、そうだが。これが悔しいのか?」


「わたしには、出なくて良いって言ってたのに」


「最上さんが乗り気じゃなかったからな。あと、出場する意味も薄いかと思ったんだが」


「……わたし以外の女の子を応援する佐藤君が、ちょっとだけムカつくの」


 む、ムカつく!?

 最上さんに、初めてそんな言葉を浴びせられた気がする。

 彼女はいつだって俺に肯定的だった。


 しかし、今回はやっぱり思うところがあるらしい。


「佐藤君の気持ちは分かってるよ。氷室さんが好きというわけではないことも、わたしのためにがんばってくれていたことも、全部分かってるの。その上で、ちょっとだけわたしは拗ねてます」


「ご、ごめん」


「――わたしは、他の男子になんて興味ないよ。学校で一番の美少女とか、そういうことはどうでもいい。ミスコンに出たくないのは、本当だよ」


 俺の行動には納得して、理解してくれている。

 ただし、論理と感情は別だ。


 諸々を把握した上で、最上さんはちゃんと拗ねていたのだ。





「でも、わたしは――あなたの一番でいたい。氷室さんにも、負けたくない」





 行動の是非ではない。

 最上さんは、俺が他の女子を一番にしようとしていることを、感情的に許せないと言いたいらしい。


 いつも奥手で、大人しい彼女にしては珍しい言動だった。

 こんなに感情がむき出しになっている最上さんを、初めて見た。


「……うん、決めた」


 戸惑う俺を見て、最上さんは何かを決意したように強く頷いた。

 俺をまっすぐ見つめるその視線は微動だにしない。こちらが視線をそらしたくなるような、意志の強さを感じる。


(これは、まずい……)


 嫌な予感がする。

 脇役という小者だからこそ分かる。今の最上さんからは、強者の圧を感じる。


 俺はもしかしたら、虎の尾を踏んでしまったのかもしれない。

 最上さんのスイッチを、入れてしまったみたいだ。


「――わたし、出る」


「……いや、それはっ」


「ううん。佐藤君が何と言っても、出るね。ミスコンに出て……佐藤君の一番が誰なのか、証明する」


 まさか、こんな展開になるなんて。

 味方だと思っていた強者が、今回は敵になる。


 バトル漫画だったら熱い展開だ。

 でも、ラブコメにおいては……少し、困ってしまう流れになっていた。


「氷室さんには負けない。だってわたしは、あなたが育ててくれた最高傑作なんだもん」


 ああ。そうだ。

 君は、俺が育てた一番の逸材だ。


 だから出場してほしくなかったんだ。

 この子が相手なら、氷室さんがミスコンで優勝する確率は、限りなく低いのだから――。



お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
サトキンが氷室さんを見下しまっててフラグっぽくて逆に勝ちそう。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ