第百五十八話 ワンチャンいけそう系ヒロイン
ひとまず、最上さんの誤解はなくなったらしい。
「たしかに、氷室さんが真田君とお付き合いできるといいね」
もうすっかり夜だ。
帰宅が遅くなると最上さんの両親が心配すると思うので、帰宅しながら話していた。
「わたしも、二人が付き合ってくれた方が、安心するかも」
「真田に狙われてるからな」
「そ、それがちょっと、怖くて……」
真田と最上さんは同じクラスだ。学校に行けば嫌でも顔を合わせることになるので、話しかけられることも多いらしい。
「佐藤君が同じクラスだったらよかったのになぁ。魔除けみたいになるもん」
真田を魔物扱いしているのはさておき。
最上さんは、良くも悪くも他人に対して圧がない。だから、真田にも狙われているのだろう。
「最近、連絡先を聞かれる機会が増えてて……」
「クラスメイトからか?」
「ううん。先輩とか、他のクラスの人とか」
……なるほど。真田に限った話ではなかったか。
あいつが魔物みたい、という意味の魔除けではなく、比喩表現だったらしい。
俺が隣にいたら、たしかに他の男子は連絡先など聞きにくくなるだろう。
「美鈴ちゃんがこう言ってたの。『風子はワンチャンありそうな感じがするよね』って」
「……まぁ、事実だな」
「事実なの!? わたしって、そんな感じなんだ……!」
自覚がないところもあれだ。男性目線、かなり魅力的である。
あざとさがない。天性の無防備さというか、隙だらけで逆にどう攻めようか迷ってしまうような感じである。
「だから真田君も、話しかけてくるのかな」
「そういう思惑があることは間違いないだろうな」
「――さ、佐藤君は、どう? わたしに、チャンスとか感じてる……?」
「チャンスだらけだな。俺がその気になれば、君はエロ漫画のヒロインだ」
「え、えろまんが……っ」
顔を赤くして、最上さんは恥ずかしそうに俯いた。
想像しているのだろうか。何やらすごく恥ずかしそうだが。
(……良かった。もう、引きずってなさそうだ)
先程、話しかけてきたばかりの時は、顔が真っ青に見えた。
表情が暗くて、今にも泣きそうで、彼女を傷つけたのではないかと不安になった。
でも、今はもうすっかり安心しているように見える。
俺が思っている以上に、最上さんは――俺のことを信頼している。
だから、たったあれだけの説明で全てを受け入れてくれた。
俺が最上さんに悪いことをするはずがない。その前提があるからこそ、むしろ俺を疑った自分自身を彼女は責めるほどだった。
その信頼のされ方が、少し怖くもある。
(俺が判断を誤ると、彼女は――)
きっと、俺と同じように間違えた道を進んでしまうだろう。
俺の後ろをついてきて、同じように破滅の道をたどることだってあるかもしれない。
そう考えると、迂闊に軽率な判断はできないなと思った。
「あ、ありがとう。わたしを、エッチな漫画のヒロインにしないでくれて」
「お礼を言われることじゃないぞ」
「でも、佐藤君に言われたらわたしは何でもやりそうだもん。だから、大切にしてくれてるんだな……って」
ただ、今回は最上さんが信じてくれたおかげで、穏便に事態がすんだ。
今回の失敗は、これからの関係性にヒビが入ってもおかしくなかったと思う。そう考えると、一長一短だ。
でも、やはり反省はしなければならない。
(たまたま、うまくいっただけだ)
俺の行動が、最上さんにとって悪い結果を生むことだってある。
その点については、自戒が必要だ。もっともっと慎重な判断を、今後は心掛けたいものである。
「あの、佐藤君。ちなみに、氷室さんはどう? うまくいってる?」
「いい感じだな。当初は少し足踏みしたが、やはり氷室さんはポテンシャルがあったみたいだ。SNSも調子がいいぞ」
「……裏垢って、あれだよね。ちょっとだけ、エッチなやつ」
「よく知ってるな」
「べ、べべべ別に興味とかないよ!? ただ、見かけたことがあっただけでっ。本当だからね! ちょっとも、考えたこととかないから!!」
いや。そんなに必死に否定されると、少し疑ってしまうのだが。
もしかして、最上さん……やろうかなと思ったことが、あったのだろうか。
意外とエッチな話には寛容なタイプである。承認欲求がもっと強ければ、あるいはその可能性もあったのかもしれない。
「俺がやってと言ったら、やってたか?」
「それはもう、喜んでやってた気がする……っ」
そうだろうなぁ。
たぶん、氷室さんみたいに抵抗もなかっただろう。
二つ返事でやって、爆発的なフォロワー数を確保していたかもしれない。
そう考えると、最上さんのポテンシャルもすごかった。
覚醒を果たしたとはいえ、やはりこの子はすごい。
氷室さんでも恐らくは及ばない、凄まじい潜在能力だった――。
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